2017年02月23日

ロングセラーたる隠れた所以

雪わたり (福音館創作童話シリーズ)雪わたり (福音館創作童話シリーズ)
宮沢 賢治 / 堀内 誠一

福音館書店 1969-12-20

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「あなたはこれが何に見えますか?」
ネットであちこちのサイトを眺めていて、ふと目についたこんなバナーを思わず凝視してしまったことはないだろうか。
見るだけであなたの深層心理を診断します!的なその手の記事は意外と多く、大抵は「○○に見えたあなたはストレスを抱えています」などと書かれていて、ああそうなのね、知ってたよ・・・と苦笑いすることになる。
(※学術的には、錯視とストレスに相関があることは証明されていないそうです。)

さて今日の絵本、宮沢賢治の「雪わたり」は、ごくシンプルな物語だ。
雪国に暮らす幼い人間の子どもの兄妹が、雪原が凍み渡るよく晴れた冬の夜に、きつね小学校の幻燈会に招待され、その束の間の交流をそれぞれに曇りのない心で受け止め分かち合う。
幼い子どもがふとしたはずみで異世界を訪れ、何かを経験し、現実世界へ戻ってくる。
昔ながらの、童話のお手本のような美しい「往きて帰りし物語」である。

ただそれだけの、あっけなくも微笑ましいファンタジー。
それなのに。
心が洗われるとはこういうことだろうか。
とにかく、登場人物のすべてがあまりにも純粋で、愛おしいのだ。
凛として、自分とは異なる文化を持つ相手に敬意を持って接する姿。
まっすぐに相手の善意を信じ、それに感謝し、素直に喜びを表現する姿。
ページをめくる度に、すっかり汚れちまったオトナの私の心に、それらがいちいちズキズキと痛いほど染みるのである。
日頃、略語・造語だらけで壊滅的に乱れた日本語に晒されてすっかり鈍感になった言語脳もまた、賢治らしい、朴訥でまどろっこしいほどに丁寧な言葉遣いにキュンキュンしてしまう。
絵もまたしかり。
多くの画家の手によって作品化されている「雪わたり」の中でも、堀内誠一氏の画は私が思い描いた幼い兄妹といたいけな小狐たちのイメージそのもので、素晴らしさにため息が出る。

こういった作品をうっかり読んで、思わぬ反応に自分で驚くことがある。
自分の心が健康で実際の生活も楽しく充実しているような時なら、ああ可愛いね、美しいねとニコニコ笑って鑑賞できる。
ところが、現実世界のストレスやらなにやらで、自分で思っている以上に心が弱っているときなどは、果たしてそれが痛みなのか快感なのかよくわからないまま、気がつくと私も涙を流していたりするのだ。
まるで読むだけで自分の心の摩耗具合をチェックできるリトマス試験紙のようだ。

特に自分の場合は、その振れ幅次第でいきなり涙が止まらなくなったりするので、ある意味、地雷絵本とも言える。
案の定、今の私はけっこうギリギリなので、この絵本を人前で音読なんかするのは危険すぎる。
もちろん、安心して号泣読みができる相手の前で読むなら、それはそれでカタルシスを得られるわけで、使い方次第で心の健康管理にも役立つのはさすが名作。
というか、子どもたちにとって素直に共感できるうれしいお話というだけでなく、無意識にそんな隠れた効能を期待する大人たちにこそ繰り返し読まれてきたからこそ、今もその輝きを失わない不朽の名作なのではないかと、私は思う。


余談だが、この手の「イタイケなもの攻撃」にめっぽう弱い自分は、同系統の絵本を記事にする時いつも「切ない絵本」にするか「泣ける絵本」にするかカテゴリーを迷う。
迷った挙句の選定が現状なのだが、結局はどっちもどっちで、読んだ時の心理状態によってただ切なくなったり為す術もなく号泣したりしているのだ。
うーん、いっそカテゴリーを「切なくて泣ける絵本」に統合してしまおうか。
いやいや、それだと何故か急に陳腐でつまらない印象になる。
いや待てよ、よく考えたら「うっとりする絵本」でもあるし「うれしくなる絵本」でもあるし、間違いなく「身につまされる絵本」でもあるし、まして今日みたいな日に読むなら間違いなく「実用的な絵本」ではなかったか・・・?
そんな私の気まぐれのせいで、かつ一記事を複数カテゴリーに含められない仕様のせいで、我が「オトナノトモ」のカテゴリーは無駄に細かく分かれているのである。

とりあえず今回は「切ない絵本」カテゴリーにいれてみたので、同じ系統の絵本をお探しの読者の方は上記の別カテゴリーも是非ご参照いただきたい。


posted by えほんうるふ at 09:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 切ない絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月20日

ほんとうに母親はいいものかしら

手ぶくろを買いに (日本の童話名作選)手ぶくろを買いに (日本の童話名作選)
新美 南吉・作 黒井 健・絵

偕成社 1988-03

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ああ、もうタイトルで言い尽くしたようなものだが・・・。
実際、母親ってのは恐ろしいもんです。
自分でやってて思う。母ちゃん、マジこえぇー!!と。

なにしろ、「産んだ強み」というのは何者にも敵わない。
エライ人が言う、「子どもは親の所有物ではありません。個人として人格を認めましょう」
そんなのは当たり前だ。
でも、いくらそれを頭で理解したところで、母の子宮はちゃんと覚えているのだ。
産んだのはこの私だと。一時的とはいえ、子の生殺与奪を支配していたのは自分だと。

私自身がそのことをシビアに実感したのは10年ほど前、
詩人の伊藤比呂美氏のあるエッセイを読んだ時のことだ。続きを読む
posted by えほんうるふ at 21:18 | Comment(5) | TrackBack(0) | 切ない絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月31日

大きなテーブルを囲んで

おおきなテーブル (絵本・いつでもいっしょ)おおきなテーブル (絵本・いつでもいっしょ)
広瀬 弦
ポプラ社 2001-06

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結婚してしばらくしたころ、ダイニングテーブルを新調することになった。
独身時代から夫が使っていたテーブルは、二人で使うには十分だったが、ちょっと人を呼ぶともう狭苦しかった。新婚当時は今より頻繁に人を招いていたので、とにかく大人数に対応できるテーブルが欲しくなったのだ。
かといって団体仕様の大きさのテーブルを常設できるほど広い家でもないので、使うときだけ天板を拡張できるタイプを探し回った。そして、大きさを3段階に調節できる北欧製のテーブルを都内某家具店で見つけ、一目惚れして購入したのだった。

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posted by えほんうるふ at 23:21 | Comment(12) | TrackBack(0) | 切ない絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月25日

あげどんべんとうはプリン付き

こんとあき
林 明子
福音館書店 1989-06


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きつねのぬいぐるみ「こん」と妹分の人間の子「あき」のロードムービー風ストーリー。
 
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posted by えほんうるふ at 15:38 | Comment(9) | TrackBack(3) | 切ない絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする