2017年01月26日

絶望転じて希望となす

ぜつぼうの濁点ぜつぼうの濁点
原田 宗典・作  柚木 沙弥郎・絵

教育画劇 2006-07

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4ヶ月前、ご縁あって前職とは全く違う業界の全く異なる業種に転職をすることになった。
そして今私は、はっきり言ってこれまでの仕事人生で一番の試練の時を過ごしている。
なんて言い方をするとものすごく大変そうだが、実はものすごく楽しい。
すごく楽しいが、問題は現状では限りなく収入がゼロに近いということだ。
こうなると、いかに仕事に対し自分のモチベーションを維持するかが、そのまんま日々のQOLを左右することを、シミジミと思い知る毎日である。
だから今日は、自分で今の自分を応援するための文章を書いてみようと思う。


今の私が仕事から得られる報酬は、職務上関わったお客様のお悩みを聞き、その気持ちに寄り添い未来に明るい展望を持って頂くことで、きっとその人のこの先の人生に何かしらの良い変化をもたらしているに違いないと思える、その自負と希望、それだけだ。
或いは、未経験の仕事をするにあたり、学ばなければならないことをタダで教えてもらっているという考え方もできる。確かに今、一期一会の出会いを重ねて学ばせていただいたいることは全て、お金に替えられない貴重な経験となっている。

もちろん、転職に先立っては自分の資質や今後のキャリアプランもよくよく考慮したつもりだ。
早くて半年、おそらくは1年で自己投資を黒字化でき、その後は運と頑張り次第で収入の大幅アップも見込める、という長期展望のもとに踏み切った決断だった。
実際、奉仕活動のつもりは全くないのだが、今現在のワークライフバランスとしては完全に収支が赤なので、現状はボランティアに近いのかも知れない。
それでも、うなだれて不安に満ちた表情だったお客様が、少しでも明るい表情を取り戻して帰る姿を見送る時、私のやっていることはきっと無駄ではない、きっと少なからず社会的に意義のあることに違いない、と思えるのだ。
その自尊感情こそ、今私がこの仕事から得られる最大のベネフィットかも知れない。


おっと、このブログって絵本のレビューブログじゃなかったっけ?

正直言ってこの数ヶ月、大好きな絵本についてゆっくり考える心の余裕は全く無かった。
面白いのは、忙しかったり何かに夢中になっていたりショックな事があったりして、ことさら絵本について考える余裕がない時ほど、私の心の中にはその時その時の実生活の状況に応じて勝手に一冊の絵本が浮かび上がる。
今回も、お題として選ぶまでもなかった。それしか思いつかなかったからだ。

「ぜつぼうの濁点」
ひらがなの国で、ぜつぼうの「せ」に仕えていた「゛」が、主人が常に絶望的なのは自分の存在のせいではないかと思い悩む。
自分さえいなければ、主人の「ぜつぼう」は「せつぼう」という悪くないことばでいられたのに。
思い余った「゛」は、主人に別れを告げ、一人孤独に彷徨い、やがて・・・

紆余曲折を経て「ぜつぼう」の濁点が「きぼう」の濁点に生まれ変わるまでを描いたこの作品は、プロットから言葉の言い回しまで、原田宗典氏ならではの日本語の懐の深さとややこしさを逆手に取った諧謔に満ちていて、まるで落語のように味わい深い。
読む度につい「山田くん、原田さんに座布団一枚。」と呟きたくなるのは私だけだろうか。


働けど働けど収入は微々たるもので、思わずぢっと手を見る・・そんな毎日を絶望と捉えるか。
確かに、あまりにも不甲斐ない日々が重なると、そんな気分になることもある。
それでもやっぱり、私はこの仕事が好きなのだ。
今日はどんな人と出会えるだろうか。どんな話が聴けるだろうか。誰を笑顔にできるだろうか。
結局はその楽しみのほうが上回り、いそいそと出勤し夢中で仕事をし、気がつけば9時10時。
そんな毎日は、決して不幸ではないと思える。
むしろ、家族の理解と協力を得てそれが許されている自分はものすごく幸せな人間だと思う。

仕事はお金のためと割り切ってやり過ごし、仕事以外に人生の楽しみを見出すか。
目に見える収入には直結せずとも、やりがいのある仕事に夢中になれる喜びを糧に過ごすか。
どちらを選ぶにしろ、本人が今を幸せと感じられるならば、そこに絶望はないはずだ。

全く稼げていないくせに、無駄に前向きで楽しそうな私を見て、上司や大先輩がおっしゃる。
「現状に対してのその姿勢・その心の持ちようこそが、この仕事に向いている証拠。きっといずれ大成するから心配ない。あなたは絶対大丈夫!」
これが希望でなくてなんであろう。やっぱり私は幸せだ。


posted by えほんうるふ at 09:11 | Comment(1) | TrackBack(0) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月19日

憧れのバイリンガル

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東京で生まれ育った私は、標準語しかしゃべれない。
いや、もしかすると厳密には私が日頃使っている日本語は「東京弁」なのだが、
それが標準語と呼ばれるものに非常に近いため、区別がつかないだけかもしれない。
そんな自分にとって、方言と言えばテレビでお笑い芸人が話す関西弁や
映画やドラマの登場人物が口にする広島弁や土佐弁の印象が強く、
身近に生の方言を聞く機会がほとんどなかったこともあって
それぞれの方言のイメージを逆手にとった「演出」のように感じていた。

初めて生の方言の威力にびっくりしたのは、社会人になって間もなくのこと、
新入社員の合同宿泊研修で地方出身の同期たちと数日間を共にした時だった。続きを読む
posted by えほんうるふ at 01:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月03日

豊饒なる八百万の神の国

めっきらもっきら どおんどん(こどものとも絵本)めっきらもっきら どおんどん(こどものとも絵本)
長谷川 摂子 ふりや なな

福音館書店 1990-03-15
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日本が舞台のジブリ映画を観る度に、意外なところで自分が日本人であることを思い知らされる。
「となりのトトロ」はもちろん、一見おどろおどろしい「千と千尋の神隠し」の世界ですら、懐かしさと共に妙な安心感を持って物語に入っていけるのは、その世界観が、私自身が日頃意識しないベーシックな宗教観に合致しているからなのかも知れない。
神と言えば唯一無二の存在であるという宗教に基づく文化圏の人々にとって、「八百万の神」という概念は理解しがたいのではないだろうか?逆に言えば、私のように特定宗教を信仰していないおおかたの日本人にとっては、おらがとこの神が一番だ、という思い込みから不毛な戦争を繰り返してきた人々の怒りや悲しみの根っこのところは、残念ながら永遠に理解できないのかも知れない。

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posted by えほんうるふ at 21:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年04月01日

市原悦子&常田富士夫ごっこの愉しみ

ももたろう
まつい ただし
福音館書店 1965-02


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松居直氏の再話による「ももたろう」は、
無理なく語り部になりきれるリズム感のある
文体で、語るほどに楽しく、癒される。
何よりも嬉しくなるのは、作中そこここに
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posted by えほんうるふ at 00:30 | Comment(6) | TrackBack(1) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月26日

ほんとうに人間はいいものかしら

手ぶくろを買いに
新美 南吉
偕成社 1988-03


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美しい日本語には語る喜びがある。
冒頭、初めての雪に驚き、無邪気に戯れる狐の子の描写は
それだけで心が洗われるような気がする。
「お手々がちんちんする」なんて表現がサラっと出てくる
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posted by えほんうるふ at 08:23 | Comment(6) | TrackBack(1) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする