2005年11月16日

器用貧乏の悲哀

4894322668ペーテルおじさん
エルサ・ベスコフ 石井 登志子
フェリシモ 2002-04

by G-Tools

すこし前に絵本おじさんの東京絵本化計画の記事を読んで、「ペーテルおじさん」のことを書きたくなった。が、前回の記事をアップした直後にギックリ腰再発の憂き目にあい、腰痛&座骨神経痛でパソコン前に長時間座っていられなくなってしまった。もはや無理のきかない身体であることを思い知らされる。そんなわけで初めて布団に寝転がりながら記事を書いてみたが、久々にワープロの手を借りずに込み入った文章を書いて、自分がいかに漢字が書けなくなっているか思い知らされる。恐怖の老化の自覚2連発。散りゆく枯れ葉にいつになく親近感を覚えつつ秋が暮れていく。
 
ペーテルおじさんは何でもできるスーパーおじさんである。町の人々はありとあらゆることを遠慮無くペーテルおじさんに頼み、彼は当然のように快く何でも引き受ける。ところが、誰一人、おじさんがしてくれた仕事に報酬を払おうとはしない。おじさんがそれを要求しないからだ。皮肉なことに、才能あふれるおじさんに唯一欠けていたのが「商才」だったのだ。

人は、あまりにも平易に提供されるサービスに対しては(そのクオリティにかかわらず)対価を払おうとしない図々しい生き物である。そのかわり、その仕事がいかに貴重で価値があり、習熟や技術力を要する困難な仕事かという、サービスのありがたみを抜け目なくアピールできる者に対しては、ほとんど言い値で金を差し出してしまう単純な生き物でもある。(ブラックジャックが法外な報酬を受け取れるのは、彼が仕事の技術力以上に営業力に長けているからに他ならない)

ちなみにペーテルおじさんはそのあまりにも自分を顧みない奉仕生活がたたって、突如やってきた役人に「ボロボロの自宅をとっとと建て直さない限り、2週間後に取り壊す」と宣告されてしまう。言い逃れも抗議も、人に助けを求めることすらも思いつかない彼は、ただただ途方に暮れる。そこでようやくペーテルおじさんの窮状に気がついた子どもたちや町の人たちが、今度は無償で彼のために尽力し、ことなきを得る。結局ペーテルおじさんはその後も自らの生き方を変えることなく奉仕の道を全うしたらしい。

絵本おじさんはそんなペーテルおじさんの姿に何か心当たりでもあるのか(笑)、彼のブログの記事につけた私のコメントへの返事で、

死んでエピソードが絵本になる人生より
後世に残らなくてもいいから
生きてるうちにいい目をみたいなあ
と今の自分を思い、ペーテルおじさんがもどかしく
なってしまうのです。


と言っていた。それはすごく素直で地に足のついた考え方だと思うが、私はむしろ、ペーテルおじさんのように才能とそれを生かす才覚が反比例してしまった人々が愛しくてたまらない。死んでようやく日の目を見た不遇の芸術家や知る人ぞ知る偉人たちの話は、人間がいかに愛すべき不完全な存在かということを私に思い知らせるのだ。


ところで、ペーテルおじさんに自活の道はあるのだろうか? もちろんある。私が思うに、彼が自力で稼ぎたいならば、宗教家になるのが手っ取り早い。なにしろ「何をやっても商売っ気を感じさせない」という、聖職者を名乗るにうってつけの素質のあるおじさんである。教養も充分で公正さや思いやりもある彼は、優秀なプロモーターがつけばあっという間にカリスマに仕立てられ、人々は決して求められないお布施を自分から捧げようと殺到するだろう。もっとも、それで彼が以前より幸せになれるかというと、それはまた別の問題だ。
posted by えほんうるふ at 10:05 | Comment(14) | TrackBack(2) | 世の不条理を思い知る絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
絵本の主人公をいきなり現世にひきずり出して、器用貧乏だの才覚が無いだの、ぼくらもひどい話ししてますね。「俺のことなんかほっといてくれ!」ってペーテルおじさんは思ってますよ。はは
ペーテルおじさんは話甲斐がある本です。
たまたま貧乏話に的がしぼられちゃいましたが、ビジュアルの面とかいろんな視点からもっと楽しんだり論じ合ったりしたいですね。
Posted by 絵本おじさん at 2005年11月16日 13:38
>絵本おじさん

明るい色調の絵本なのに、なんか話を湿っぽくしちゃってすみませんねぇ(笑)。
でもね、絵本おじさんのペーテルおじさん評を読んだとき、すごく新鮮な感動があったんですよ。まさに生活かかってる男の視点だなーって。
これが例えばペーテル「おばさん」だったらどうでしょう?経済力は無いけれどみんなを幸せにする彼女をそのまま受け入れられるのではないでしょうか?

私ももしペーテルおじさんに養うべき妻子があったら、「情けないことだ…」なんて言ってる場合じゃないだろ!と蹴りを入れたくなるかも。ということは…そうだ、宗教家よりもペーテルおじさんにぴったりの職業がありました。「主夫」です!
Posted by えほんうるふ at 2005年11月18日 09:44
腰痛&座骨神経痛なんて、大変ですよね。少しはよくなられましたか? お大事になさってください。

この絵本は読んだことがありませんが、いつもながらのえほんうるふさんの視点の面白さで興味を抱きました。提供するものに対価を求めることをしないこのおじさんがお金ではなく人々の反応が最大の報酬?というか、喜びだったのかもしれませんね。

サイトで儲けようという発想は当初なかったのですが、思いがけず本に載せたいとか言われてしまったりすると、複雑な気持ちを感じたことを思い出します。このページいくら、なんて考えてしまう自分はちょっと嫌な気がしました。おじさんがお金を貰わなかったのも、ある意味おじさんの中でその奉仕はお金という生活手段ではなく生きがいみたいものだったのかな、などと想像してしまいます。そういう生き方は現実的ではないにせよ、憧れもあります。貧乏だけど、喜びを見出せるという生活なのかな、なんて。
読んでいない絵本なのに、あれこれ書いてしまいまして、失礼しました。
Posted by kmy at 2005年11月18日 10:25
>kmyさん

その絵本を実際に読んだかどうかに関わらず、私が一冊の絵本から感じたことを一緒に考えてくださる方がいることを、とても嬉しく思います。
ペーテルおじさんは、お金では得られない報酬を糧に、誰よりも豊かな人生を送っていた。そう考えると素敵ですね。逆に言えば、ペーテルおじさんの仕事はお金では買えない尊いものだったのでしょう。

サイトの方向性とか管理人としての有り様については、以前kmyさんのブログで有意義なやりとりをさせていただきましたね。私は結局その後もずっと「頑固オヤジのこだわりラーメン屋スタイル」のままで来ています(笑)。でも、儲け度外視で趣味の店を続けられるのは家族の理解とサポート、そしてお客様の支持があってこそで、そのありがたみを忘れないようにしたいと思っています。
Posted by えほんうるふ at 2005年11月19日 02:17
えほんうるふさん、
何とも今私が抱えていることをズバッと書いていただき、光栄です。究極のボランティア生活をしているペーテルおじさん。私の周りにも一銭にもならないボランティア活動を一生懸命やっている人達がたくさんいます。ま、お金では買えないモノをもらっているから・・・それにつきますかね。
でも、ボランティア活動をしている人達の中には、自分が何か人のためにしているという優越感に酔いしれて自己満足をしている、あるいはそういう自分を世間的にPRしよう・・・なんて思っている人もいる・・・なんてこと言ったりしたら、怒られますかね。いえ、そういう自分もそういう時期があって、自分がとてもいやになったことがあったのです。だから、人のため・・・とか偉そうなことではなく、自分が好きだからやらせてもらってると考え、できることはやる、でもできないことはやらないことに徹して、楽しんでます。
この本、是非読んでみたいです。
Posted by ka-3 at 2005年11月19日 12:51
>ka-3さん

おっしゃること、よく分かります。哀しいことですが「ボランティア」という言葉にはいつも何となく「偽善」というイメージがつきまといますね。でも、本当の偽善者はそんなこと気にしないのでしょう…。
ka-3さん、ぜひ「ペーテルおじさん」を読んでみてください。彼がやっていることは端から見れば確かに無料奉仕ですが、そこにはよこしまな気持ちは全く感じられません。ただ自分がそうしたいから、そうするのが自然だからそうしている、そんな感じです。

主婦の仕事だって、賃金がもらえないという意味ではボランティアと一緒ですが、自分がやりたくてやっているんだという気持ちが持てれば、とても面白くやりがいのある仕事なんですよね。
仕事から帰って家事に追いまくられ「もう、なんで私ばっかり…!」という気持ちになった時には、思い切って家事を放棄してしまい、その時自分がやりたいことを優先します(つまり、良妻賢母にはほど遠い(^^;))。でもそうすると不思議とまた家事がやりたくなってくるのです。で、やりたいことをやるのは、楽しい。私はそんな風にして自分のやる気コントロールをしています。
Posted by えほんうるふ at 2005年11月20日 15:15
はじめまして。絵本で検索して、ここにたどりつきました。
私は、この絵本を読んだことがないのですが、読んだら、たぶん、ペーテルおじさんのことが、もどかしくてたまらなくなると思います。もしかしたら、腹を立ててしまうかも。一方、憧れてしまうかもしれないと思う自分もいます。
私は、非常勤で福祉系の仕事をしています。(独身時代の職場にもどった格好)
この仕事は、ボランティアの方に頼る部分の多い仕事です。その方々には、本当に感謝しています。
でも、私は、愛してやまないこの仕事を、専業主婦の時にも、ボランティアをして支えようとは思いませんでした。何故なんだろう?そんなことを、グルグル考えています。
私が欲深いからなのかしら?心の底から、なに一つ見返りを期待しないで仕事をするって、どんな気持ちなんだろう・・・?
ものすごく考えさせられました。絵本、是非、読んでみたいです。
追伸・ブログ初心者なので、コメントの出し方などに失礼があったらごめんなさい。
Posted by こもも at 2005年11月21日 20:39
老化というほどのお年ではないでしょう!
はは。ワタシ最近、睡眠時間が極端に短いです。
これは老化現象でしょうね。あとは、老眼ですと。これがひどいんだなぁ。グス。
--(や)--
Posted by 山猫編集長 at 2005年11月21日 21:37
>こももさん

初めまして!オトナノトモへようこそ♪

>でも、私は、愛してやまないこの仕事を、専業主婦の時にも、
>ボランティアをして支えようとは思いませんでした。

それは当然ではないでしょうか。決して楽なお仕事ではないと思いますし、一度はプロとして仕事をしていたのなら、それで報酬を得ることが自然になっているのでしょう。例えば…私がもし長年プロのホームヘルパーとして働いていたなら、主婦になって同じ労働を無償ですることに多少は抵抗感があるはずです。それができるのは、やはり家族を愛する気持ち、愛情というお金に換えられない大切なものを維持したいと思う本能があればこそではないでしょうか。
欲深いだなんて、とんでもない。仕事を愛する気持ちと、その仕事を捧げる相手を愛する気持ちは別物なのですから…。

私もこももさんのコメントを読んで、また違った観点から仕事と報酬について考えることができました。ありがとうございます!
どうかまたお気軽にお立ち寄り下さいm(_ _)m
Posted by えほんうるふ at 2005年11月22日 15:13
>山猫編集長さま

>老化というほどのお年ではないでしょう!
ええ、そのつもりでいた自分だからこそショックだったのです(^^;)
30代なかばって、ちょうど無理が利かなくなってくる端境期じゃないですか?
睡眠時間が短くて平気になるのなら、それはありがたいなぁ…。
Posted by えほんうるふ at 2005年11月22日 15:17
ご無沙汰してます。

おもしろい解釈ですね。

私ね、ずっとこれって自分が悪いんだと思ってたんですよ。器用貧乏って。最後の優秀なプロモーターと組むっていうのありましたよね。これなんですよね。これがすべてだと思うんです。なんでも自分でやろうとすると食べるので精一杯で、ホント器用貧乏になってしまいます。家塾の先生は器用貧乏の典型です。(ああ、言っちゃった)

私は今、迷路の教材を作ってますが、人と組むことにしました。教材会社と組んだほうが私にはいいと思ったんです。別のものを売るときはまた別の人と組む。

記事の趣旨とははずれてるんですが、書きたくて書いてしましました。

お体大切にしてください。

では。
Posted by りんご at 2005年11月22日 21:52
>りんごさん

お久しぶりですね。相変わらずお忙しそうで…。

器用貧乏に陥りがちなのは、能力の高い人に共通する贅沢な悩みなんですね(笑)。スペシャリストでいるよりグローバリストとして成功する方が難しいのはそこなんでしょう。
新しい試みが成功することをお祈りしています。

そうそう、りんごさんが来てくださって、以前りんごさんがブログに書いていた絵本のことを思い出しました。ちょうど良い季節なので、次はその絵本のことを記事にします。(旧ブログの記事ですが、一応TBさせていただきますね)
Posted by えほんうるふ at 2005年11月23日 23:47
 痛そうですね。早く楽になるといいのですけれど、寒さはこたえるでしょうか。
 ペーテルおじさんは確かにもどかしく思えることもありましたが、こんなだんな様だったら楽しいかなと思いました。生活の憂いはあるかもしれませんが、そのほかはとっても平安で幸せな気がしました。生活の問題が一番大きいんだよって言われそうですね。TBさせてください。
Posted by bunbun-story1000 at 2005年11月27日 14:56
>bunbun-story1000さん

こんにちは。腰痛は残念ながら今も続いています(泣)。ご心配ありがとうございます。

ペーテルおじさんが夫だったら…そんな彼を愛して一緒になったのだから、潔く自分が稼いで家計を支えるか、彼の才能を収入につなげるマネージャー業を生き甲斐にするでしょう。実際には、私の父がそういうタイプの人で、母が苦労しているのを嫌と言うほど見て育っていますので、相当な覚悟がなければ生活を共にしようとは思わないはずですが(笑)。
Posted by えほんうるふ at 2005年11月27日 23:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/9394811

この記事へのトラックバック

「ふつうの子?」の心に潜む闇   〜いざ、ボランティア!〜    
Excerpt: またもや、「ふつうの子」と思われていた少年による凶悪事件が起きた。 それも、「ふつう」では考えられないような残忍なやりかたで・・・。 そのときの少年の心は一体どうなっていたのだろうか。一方的な思い..
Weblog: かあさんのお話ダイアリー
Tracked: 2005-11-19 12:56

ペーテルおじさん
Excerpt: エルサ・ベスコフ, 石井 登志子 ペーテルおじさん  今日の絵本はこれ、読んだ後に、にっこりするような気持ちのいい絵本だ。 ペーテルおじさんというなんともやさしいおじさんが出て..
Weblog: ぶんぶん 世界の絵本
Tracked: 2005-11-27 14:49