2005年10月03日

澄んだ瞳の見つめるもの

4062118408復刻版ちいさいモモちゃん〈2〉ルウのおうち
松谷 みよ子
講談社 2003-04

by G-Tools


私はこう見えても(読めても?)けっこう涙もろい人間だ。でも、人それぞれに泣き所が違うように、私の場合は単純に悲しくて泣くことはあまりない。お別れ会などの人が普通に泣きまくる状況で、自分でも不思議なほど涙が出てこない。痛くて泣くこともまず無い(2回の出産では分娩台の上でほとんど笑っていた)。嬉しくて泣いた思い出というのも、とんと思いつかない。嬉しい時は殴られても笑っていられるタチだ。
そんな私の涙腺を刺激するのはいつも「切なさ」だ。小さくてカワイイもの・立場の弱い者がめげずに頑張る様子を見た時、大好きな相手に思いが伝わらない時、自分にはどうにもならない状況に、泣く。すぐに泣く。いくらでも泣く。特に「イタイケなもの攻撃」にはめっぽう弱く、映画に幼い子どもが出てくると、たいてい見終わる頃には目と鼻が赤い。

今日の絵本も、そんな私の弱点をくすぐる絵本だ。
ちいさいモモちゃんは、コドモらしい無邪気な残酷さで、突如お気に入りのぬいぐるみのルウに向かって暴言を吐く。

「ぷっぷっぷっ、ルウなんて いらないもん。 おうちへ かえりなさい。」

行き場のない相手を平気で追いつめるようなことを言うのがコドモだ。
そしてルウは…

ルウは、すこし ないていたみたいでした。

一人で少し泣いて、何も言わずに家を出たルウ。深く傷ついたであろう彼の気持ちを思うと、切なくてたまらなくなる。
一方モモちゃんは、自分で追い出しておきながら、本当にルウが行ってしまったことに気がつくと「やあよう」なんて泣いて駄々をこねる。この身勝手さもまた、世界は自分中心に回っていると信じて疑わない幸せなコドモのあるべき姿であろう。
モモちゃんは自分のしたことを省みもせず、さっさと気持ちを切り替えてルウを探しに出かける。ここで必要以上にクヨクヨしないモモちゃんのたくましさが好きだ。モモちゃんがオトナの女なら「わたしのせいだ、あんなこというんじゃなかった…」と後悔と自己嫌悪で落ち込むかもしれないが、コドモはひたすら前向きな生き物だ。本能的にどうすればいいかだけを考え、どんどん行動に出る。
モモちゃんは一人で、愛するルウを探して歩く。実はルウは、もうかなり汚れたボロボロのぬいぐるみであることが、道すがら出会った動物たちとの会話からうかがえる。そんなルウを恋しがるモモちゃんの純粋な気持ちが嬉しい。
モモちゃんが森の奥まで探しに行くと、ようやくルウが見つかる。ルウは、モモちゃんにいじめられたことなんかすっかり忘れたように、屈託なく喜んで彼女を出迎える。

ルウは、どろんこに なって、 おうちを つくって いました。
「ぼく、おうちが ないから つくったの」
ルウは、うれしそうに いいました。
「そいでね、モモちゃんの いすも つくったよ。」


健気なルウの姿もまた、幼いコドモそのものだ。愛する人の理不尽な仕打ちに傷ついて泣いても、遊びに夢中になればすぐに忘れてしまえるたくましさ、心の寛さ。人を自分を信じる気持ちに影の差し込まない、無知ゆえの健全さ。生命力の塊のような彼らには、過ぎたことををいつまでも悔やんだり恨んだりしている暇はないのだ。屈託なく、ひたむきに前を向いて生きている彼らの姿に、私はいつも励まされ、読むたびに小さい人たちへの愛しさがこみあげてくる
願わくば、彼らがその強い心を持ったまま大きくなれますように…。
posted by えほんうるふ at 02:01 | Comment(20) | TrackBack(3) | 泣ける絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
モモちゃんとルウのお話は、どこにでもある日常的な光景。ですが、その奥からもうひとつのお話を見つけ出してくる松谷さんの『すごみ』。
子どもが発する「残酷なことば」も、実は裏腹の感情だったり、ごちゃまぜの感情の収拾のつかなさだったりするわけですよね。
さらっと描けば描くほど、そういうものがキラリと光って見える一瞬があります。
--(や)--
Posted by 山猫編集長 at 2005年10月03日 08:52
この本の展開が大好きなんですよね。
けんかした二人、でもルウはモモちゃんが来ることを予測していたように椅子を1つあけておく、そしてモモちゃんも会えること確信してお菓子を2つ持っていく、そしてハッピーエンド。
読み手の心を揺らすテクニックは、わかっていても心地よい。この王道パターンはいつかパクって一本書いてやろうと思ってました。
Posted by 絵本おじさん at 2005年10月03日 09:30
こんにちわ、えほんうるふさん。
お恥ずかしながら、まだちゃんとこのシリーズ読んだことないんですよ( ̄◇ ̄;)。
でもえほんうるふさんの記事を読んで、「おお、やはり長く愛されてきただけあって、かなり名作っぽいぞ。ちゃんと読まねばー」とあせりました。
「こども」を理解していないと書けないおはなしですねえ。
モモちゃんのえほんシリーズは、「たけだみほ」さんの絵でも出ていますよね。
(そっちもちゃんと見ていません。あー、ダメダメだー)
Posted by スズモモ at 2005年10月03日 09:48
>山猫編集長

松谷さんの文章は、さらっと書いてあっても余白がものすごく饒舌なんですよね。「ルウは すこし ないていたみたいでした」私なんか、この一文で軽くご飯三杯いけちゃいます(意味不明(^^;))
ごちゃごちゃした気持ちをどうにもできず、ただもう泣いたり怒ったり笑ったり、精一杯吐きだしつつ前に進んでいく、そんなコドモ達が愛おしくてたまりません。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月03日 15:39
>絵本おじさん

切ない話だけれど、すごく幸せな話でもありますね。お互いを信じる気持ちがまったく揺らがない関係って、オトナになるとまずありえないですから。ちょっと想像できないぐらい、強い絆を感じます。
日常的に小さい人たちと関わっていると、時々そんなふうにハッとさせられます。オトナになるということは、人や自分を疑うようになることかも知れない…とかね。
子育てって、目からウロコ体験の連続ですね。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月03日 15:55
>スズモモさん

変に美化することも侮ることもなく、幼児のありのままの姿を理解し、それを愛情込めて表現しているという点では、松谷みよ子さんと中川季枝子さんには敬服しています。ほんとに、すごくよく見てるんだなーと、母親としても感心します。

絵は、私は絶対に中谷さんのが好きですね。他人に思えないと言うか…。昔のアルバムを見ると、自分もこのモモちゃんそっくりなおかっぱ頭&ジャンバースカートで遊んでいる写真があって、笑ってしまいました。
たけださんのモモちゃんもキュートだけれど、現代っ子らしくやたら快活で要領の良い女の子に見えて、私の持つモモちゃんの無垢なイメージからはちょっと外れてしまうのです。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月03日 16:15
えほんうるふさん、
この年になると、私も涙腺がとても緩んできましたね。
一生懸命頑張っている子を見たときとか、ぐうらしい子(あ、これ熊本弁なんですが、「愛しい」とか「ぐっと我慢して精一杯頑張っている子を抱きしめてあげたい」とか・・・そういう気持ちです)を見たときとかって、「切なさ」を感じ、ポロッと涙がこぼれますね。
このももちゃんの本は、小さい頃よく読んでましたが、考えると我が子にはあまり読んでいませんでした。
何気ない一文で、子どもの心理をこれだけ表せるなんて、やっぱりすごいんですね。また読みたくなりました。
Posted by ka-3 at 2005年10月03日 19:01
TBありがとうございました。

「モモちゃんのルウ」もなつかしいです・・・
子供も「おばけとモモちゃん」はすっかり気に入ったようで、
毎晩何冊か読む本の中に必ず入るようになりました。
「モモちゃんとルウ」も買っちゃおうかしら?

たけださんのモモちゃんもキュートだけれど、現代っ子らしくやたら快活で
要領の良い女の子に見えて・・・って同感です。
そういう意味では子供の為に買うのなら武田さん?とも思いますが、
このシリーズはやっぱり松谷さんじゃないとダメなんですよね〜
Posted by もも at 2005年10月04日 09:23
えほんうるふさん、こんにちは!
この間は、魔女さんとこの<うれしいことインタビュー>に登場してくれて、ありがとう!!

“居場所”をおいだされたルウが、モモちゃんの
“居場所”をつくって迎えるおはなし・・・。

そう、ぼくらもこれくらい、前を向いて、
やさしさを力に歩いていきたいよね。
Posted by グッドラック at 2005年10月04日 14:44
えほんうるふさん、こんにちは!
グッドラックとともにおじゃましてます魔女さんです♪

もと人形劇のお姉さんだったせいか、
魔女さんは、童話のあの「人形」の挿し絵(?)派です。(笑)
大きくなって、ポニーテールにしているモモちゃんが、
魔女さんによく似てるせいかもしれない。(^^;)

ちなみに魔女さんも、涙腺がもろいわりにお別れ界などでは泣けない子どもでした。
斉藤由貴さんの『卒業』という歌が流行ったおり、
「卒業式で泣かないと、冷たい人といわれそう」
という歌詞に、えらく共感したものです。
Posted by 本棚の魔女 at 2005年10月04日 14:48
>ka-3さん

「ぐうらしい」って何だかあったかみのある言葉ですね。表現力のある方言に、日本語の良さを改めて知る思いです。いいなぁ。モモちゃんもルウも、ほんとにぐうらしいコドモ達だと思います。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月05日 00:03
>ももさん

ようこそオトナノトモへ。わざわざお越しいただき、嬉しいです。
「おばけとモモちゃん」も素敵な絵本ですよね。うちの娘はものすごく臆病なので、怖いモノ無しのモモちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいです。まあ無知ゆえの無鉄砲さなのかも知れませんが、オトナも時にはこの勇気を見習いたいところですね。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月05日 00:13
>グッドラック

わあい、グッドラックがオトナノトモに遊びに来てくれるなんて感激♪ いつでも来てゆっくりしてってね。
魔女さんがいる限り、グッドラックの居場所は絶対になくならないもんね。グッドラックのいる場所こそ、魔女さんが心から寛げる場所でもあるんだと思うよ。それって何だか、素敵な関係だよね…。

P.S. <うれしいことインタビュー>は、こちらこそ素敵にまとめて下さった魔女さんに感謝しています。「これからもよろしくお願いします!」って伝えて下さい。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月05日 00:25
>本棚の魔女さん

魔女さんの人形劇、見てみたかったなぁ。きっと観る者を幸せにする劇だったんでしょうね…。

でも、魔女さんが「泣けない子どもだった」というのはちょっと意外。でもその気持ちが分かるだけに、魔女さんをより身近に感じました。そうそう、私も『卒業』がリアルタイムで流行った世代なので「やっぱ冷たい人って思われるのかな〜」なんて変に気を回して、ムリヤリ涙を出す練習をしたりしてました。今思えば不器用な上に笑っちゃうぐらい自意識過剰な思春期でした…。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月05日 00:38
えほんうるふさん、はじめまして。
実はずいぶん前からちょこちょこと覗きに来ては
楽しく読ませていただいてました。

このシリーズは大好きなのでコメントを書こうとしたのですが、
思い入れが強すぎて長くなっちゃいそうなのでやっぱり削除しちゃいました。

また遊びに来ますね!
よろしくお願いします。
Posted by NOBITA at 2005年10月06日 20:21
モモちゃんシリーズ(絵本でなく児童書ですが)は、両親の離婚とともに封印されていたような…。
子供向けなのに、父母の葛藤もしっかり描かれていて、画期的な本だったと思います。
うちの両親の離婚原因ではなかったけれど、「お父さんの木に宿り木が!」って、子供心にすごくショックでした。そのお父さんの木が、歩き出してしまうところなど、挿絵ごとくっきり思い出せます。
大人になった今では、宿り木は恋愛に限らず、色んなケースがあるよな〜なんて思いながら、平々凡々に過ぎる家族の毎日の幸福を思ったりして。(うちはご存知の通り波風ジェットコースター夫婦なので、たまにある凪の日はとっても幸福を感じる。)

民話を伝承する大切さを思う松谷さんらしい、大人になっても感じるところの大きいシリーズだと思います。
絵本は読んだことがないので、ぜひ読んでみたいと思いました。
Posted by かめちゃん at 2005年10月07日 01:44
>NOBITAさん

オトナノトモへようこそ!コメントいただけて嬉しいです。
思い入れが強いのはむしろ大歓迎です(笑)。どれだけ長くなっても構わないので、良かったら気が向いたときに改めてその削除しちゃった内容を聞かせて下さいね。
NOBITAさんのブログも読み応えがありそうです。後ほどゆっくりお邪魔します〜
こちらこそ、よろしくお願いしますm(_ _)m
Posted by えほんうるふ at 2005年10月07日 02:43
>かめちゃん

そうそう、児童書のモモちゃんシリーズはだんだん悲しいお話になってしまって、それが無垢な瞳を通して語られるので余計切ないんだよね。小さい頃読んだ時にはちゃんと理解はせずともそれなりに衝撃を受けていたような気がします。今読むと作者の内面の葛藤が想像できるだけに、それでも凛としていて美しい間のある文章に恐れ入る感じです。ああ、うまく表現できずもどかしい…。
とにかく、ルウのおうちはオススメです。(トホホ。)

でも、ジェットコースター夫婦なのはうちも一緒じゃん(笑)つい先日も冷戦が和解に至らないまま家族旅行に突入してしまい、娘に旅先で「もうそろそろ許してあげたらぁ?」なんて言われる始末。でも昔を思えばお互い波を乗り越えるのが上達したと思います。ハハハ。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月07日 03:16
えほんうるふさん、
お返事ありがとうございました。
ちょっと的外れかもしれませんが、
TBさせていただきます
Posted by NOBITA at 2005年10月07日 15:51
>NOBITAさん

改めてのトラックバック、ありがとうございました。的外れどころかガシッと直球のエントリーではないですか。ふむふむと深〜くうなずきながら読ませて頂きました。自分と価値観のかぶる方がまた一人見つかったようでヒソカに喜んでいます。ムフフ。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月08日 18:07
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