2005年08月06日

サンドイッチに愛を込めて

ジャムつきパンとフランシスジャムつきパンとフランシス
リリアン・ホーバン 松岡 享子

好学社 1972-01
おすすめ平均

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我が家の朝食は、いつもパンだ。パンでなくちゃいやだ、というわけではないが、夫がコーヒーがないと夜が明けない人なので、ついパンやシリアルという洋食メニューになる。数年前にホームベーカリーを購入して以来、普段の朝食用に市販のパンを買うことはほとんど無くなったが、子どもがいない共働き時代には早起きして夫と出勤前にあちこちの朝食メニューを食べ歩いたものだ。
 
勤務地が築地〜銀座近辺だったので、そのエリアの喫茶店の朝食メニューはかなりあれこれ試したが、どこよりも私たちが気に入っていたのは、新富町にほど近い築地木村家のサンドイッチだった。
銀座の木村屋總本店の分家という由緒正しい老舗であんぱんが名物の店なのだが、店の奥に喫茶スペースがあり、そこで食べられるサンドイッチが絶品なのだ。
昭和初期から時が止まったようなレトロな店内に入ると、赤いギンガムチェックのビニールクロスがかかった小さなテーブルに、スナップ写真に手書きの説明がついた手作りのメニューが置かれ、カウンターの奥ではこの道何十年みたいな手際で年配のマスターがサンドイッチを作っていた。
種類豊富なサンドイッチはどれも具沢山で、それぞれに「コニーアイランド」「ブルックリンサパー」「リルナイル」など、意外なほどハイカラな名前がついていた。そして、特徴的なのが独特の手の込んだ野菜の薬味を多用していることで、これらがそのへんの喫茶店では絶対に食べられないような複雑で洗練された味わいを醸し出していた。また日替わりのスープも手が込んでいて、香草や大麦の入った欧風家庭料理を思わせる風味にこの店らしさを感じた。
どこよりも質的に満足度の高い朝食を食べられる店として大のお気に入りだったが、結局ここへ来るといつも朝からお腹がいっぱいになってしまう(そして朝から懐が寒くなってしまう…)ので、週に数回行くのがせいぜいだった。


懐かしさに思わず木村家の話が長くなってしまった。今日の絵本を紹介しよう。
ジャムつきパンが大好きなフランシスは、お料理上手のお母さんが作ってくれるバラエティに富んだメニューに見向きもせず、ひたすらジャムつきパンに固執する。
この「ばっかり食べ要求」は親を困惑させる幼児の自己主張としてはよくあるパターンで、我が家なら「文句があるなら食うな」と一蹴されるところだが、賢いフランシスの母は涼しい顔で一枚上手の対応をしてみせる。名付けて「食わぬなら泣くまでやろうジャムつきパン」作戦は見事成功し、フランシスは自分からすすんで他の食べ物を食べるようになる。
さてここからが私の一番好きなシーン。次の日、フランシスの母はここぞとばかりに腕によりをかけフランシスに素晴らしいお弁当を持たせてやるのだ。そのメニューは、トマトのクリームスープ・白パンに伊勢エビのサラダのサンドイッチ・野菜スティックと黒オリーブの付け合わせに、デザートはサクランボとチョコレートのかかったバニラプリン。しかも、幼い我が子のココロの成長を祝うかのように、テーブルセッティング用にレースの紙ナプキンとスミレの一輪挿しまで添えてあるという心憎い演出。フランシスはもう2度とジャムつきパンだけを食べたいなんて言わないだろう。

ホーバン夫妻のフランシスシリーズはどれも、幼い子どもの成長をあたたかく見守る作者の想いが感じられて気持ちがなごむ。また、幼い娘の子どもらしいワガママをおっとりと受け止めつつ、おだやかに賢く対応するフランシスの両親の姿が印象的で、ついオトナのペースを押しつけて余裕のない育児をしがちな私にはとても参考になる育児書でもあったりする。


さて、この絵本には他にも色々と料理が出てくるのだが、平凡な献立も作り手の愛情が伝わるように描写され、読み進むほどに腹が減る
特にサンドイッチが何度も出てくるせいか、読み聞かせの度に築地木村家を思い浮かべていた。今回この記事を書くためにきちんと店のことを思い出そうとネットで検索してみたところ、思いがけず当のお店のホームページを発見して驚いた。世代交代が進んだのだろうと時の流れを感じずにはいられないが、あの店の流行に乗らないレトロな雰囲気が気に入っていたかつての常連としては嬉しいような淋しいような複雑な気分になった。それでも件のサイトを隅々まで読み進むうちに、現窯元の店の歴史を大切にする心と、革新のみならず伝統をも重んじる誠実な姿勢が伝わってきてホッとした。研究熱心な4代目の努力で、どうやら現在はバラエティに富んだ変わりあんぱんの店としても大躍進中らしく、興味を引かれた。嬉しいことにこちらはネットでも購入できるらしい。
サイトにはオリジナルサンドイッチの詳しいメニューもあり、夫と二人、しばし思い出話に花が咲いた。近いうちに、あの懐かしの絶品サンドイッチを味わいに築地まで足を伸ばそうと思う。

【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・くどー★La★ちぇこさんの絵本日記/くどうちえこさんのさらに空腹感を駆り立てる詳しい絵本レビュー(原書画像付き)
・晴耕雨読/souchanloveさんのI LOVE ジャム
posted by えほんうるふ at 10:23 | Comment(15) | TrackBack(0) | よだれが出る絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
木村屋のサイトに行ってサンドイッチみました!
すっごく美味しそうだった!
行ってみたい!でもここは熊本(TT)

絵本も想像しただけで面白そう!
Posted by lovebooklove at 2005年08月07日 10:06
東京で生まれて育ちながら、東京のことをホントに知らない私は、築地に行ったこともないということに今更ながら気がつきました!
近々絶対に木村屋のサンドイッチを食べます!

「いやなら食べなくていい!!」と言い切ってしまう私にも必読の本ですね★
Posted by 萌ぴょん at 2005年08月08日 13:01
えほんうるふさま
こんにちは!
コメント&トラックバックありがとうございました。トラックバックナマスネコの私のために、こんなに素敵なご紹介をありがとうこざいます!

「食わぬなら泣くまでやろジャムつきパン」は、ナイスコピー!
ともすれば「食わぬならなんにも食うなジャムつきパン」式育児をやってしまいがちな私としては、たまに、フランシスのおかあさんのおおいなる豊かなふところのつめのアカでもせんじさせていただこうと、たまにこっそり読んだりしています。3姉妹の読んでくれリクエストにもあがるのですが、何せ、テキストがしっかりと長いので、一冊読みきるとへとへとに・・・(笑、でもシリーズで全部そろえているので、次はコレ、と、次々ともってくるのですよね)

余談ですが、この作者のその後をほかの本のあとがきなどで読むと、個人的に時の流れのあはれを感じてしまうのです・・・。

フランシスシリーズはすべてお気に入りですが、『ハービーのかくれが』も大好き。『むしゃくしゃかぞく』もいい感じです。

また遊びに参りますね!
Posted by くどうちえこ at 2005年08月09日 09:14
>lovebookloveさん

く、熊本でいらっしゃいましたか・・それは残念。もし何かの折りで東京にいらした時にはご案内致しますよ。
フランシスシリーズはどれもおすすめですので、どうぞ機会があればご覧になってみて下さい。
Posted by えほんうるふ at 2005年08月09日 09:22
>萌ぴょんさん

私も東京生まれですが通勤経路になるまでは築地界隈には来たことがありませんでした。意外と東京の名所って地方の人の方が詳しいですよね…。

ちなみに、私もよく間違えてしまうのですが、築地木村家さんは「屋」ではなく「家」なのです。これにはれっきとした理由があって、お店のホームページの「木村家の歴史」のところに書いてあります。私も知らなかったのでなるほど〜と思いました。
Posted by えほんうるふ at 2005年08月09日 09:30
なるほど「家」なのですね![解説]を読んでまいりました。
いつもながらえほんうるふさんのblogは勉強になります^^
ありがとうございました♪
Posted by 萌ぴょん at 2005年08月09日 10:45
 築地木村家インターネット担当(?)まっつぁんです。
 えほんうるふさん、この度はHPご覧頂きありがとうございます。現在4代目になりますが、3代目の時は本当に数多くのサンドウィッチが、そして現在は加えて数多くのあんぱんが登場しております。ホント〜にいろんな種類が出てますけれど、やっぱり人気はけしあんぱん。常連さんはいろいろあっても、普通のけしあんぱんがいいとおっしゃいます。

 そこで、”食わぬなら 泣くまでやろう けしあんぱん”

 以上おあとがよろしいようで(失礼致しました。)
Posted by まっつぁん at 2005年08月09日 21:46
>くどうちえこさん

こんにちは。確かにフランシスシリーズは読み聞かせするには結構なボリュームですよね。いつもなら寝る前に3冊読むところを1冊にしてもらったりして(^^;) シリーズ連続読みとなるとかなりの時間を割く覚悟がいりますね。楽しいんですけどね。

「ハービーのかくれが」「むしゃくしゃかぞく」はどちらも未読です。ちえこさんのオススメとあれば、早速チェックせねば。ありがとうございます!
Posted by えほんうるふ at 2005年08月10日 02:19
「最高のコーディネートをセンス良く」売っているお店はかっこいい。僕もかくありたい。子供はサンドイッチ職人にさせよう。今決めた。迷惑か。は
コメント書いたのは今ですが、もう7〜8回このコラム読んでます、腹減った。
Posted by 絵本おじあん at 2005年08月10日 12:24
>まっつあんさん

こんな辺鄙なところまでわざわざお出で頂き恐縮です。木村家スタッフの方から直々にコメントを頂けるなんて光栄です。
サンドイッチに思い入れの強い私ですが、あんぱんももちろん大好きです。ちなみにあんは断然小倉派なんですが・・。そういえば、あんぱんが出てくる絵本てありそうで中々無いですね。今度探してみようっと。
そうそう、あんぱんオールスターズ早速注文しました。早く食べたいっ!
Posted by えほんうるふ at 2005年08月11日 00:43
>絵本おじあん(ってニセ者みたい(笑))

サンドイッチ職人といえば、木村家3代目の情熱はすんごいですよ。ぜひぜひお店のサイトの「プレスリリース」をご覧アレ。そうそう、もう一店、サンドイッチのうまい店といえば銀座数寄屋橋の東芝ビル内の「アゲイン」もおすすめです。こちらのマスターも研究熱心らしいです。
う、書いているうちに私も猛烈にお腹減ってきたっ。夜中なのに〜…。
Posted by えほんうるふ at 2005年08月11日 01:16
フランシスのシリーズ、1冊しか知らないのですが、これはなんとも興味をそそりますね。
「泣くまでやろうジャムつきパン」ですか…うちの息子にも応用できればいいなあ。
Posted by ぱいぽ at 2005年08月13日 16:36
>ぱいぽさん

我が子に応用できそうでできないのが絵本ならではですね。フランシスの母は勇気があります。尊敬。
Posted by えほんうるふ at 2005年08月15日 03:04
えほんうるふさん、こんにちは〜。久々に覗いてじっくり読ませていただきました。
空腹時には、かなりリアルに伝わる内容でしたわ(^^;
(お腹がいきなり活動開始、口には生つばが…。)
以前、サンドイッチ工場でアルバイトした事もあって、サンドイッチにも思い入れがある私。
今すぐにでも東京の木村屋まですっ飛んでいきたい…です、ムリだけど。(^^)
Posted by yosshie-12 at 2005年10月01日 17:30
>yossie-12さん

こんにちは。
久々にお目にかかる読者の方が、わざわざ過去記事にコメントをくださると、とても嬉しく思います。
食べ物の工場って、何だかわくわくする場所ですよね。従業員しか知らない「サンドイッチ工場の秘密」もあったりして…(笑)
Posted by えほんうるふ at 2005年10月03日 00:53
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