2005年06月30日

祝!カミサマの仲間入り

大好きな絵本作家さんがまた一人、お亡くなりになった。
長新太さん、享年77歳。
悲しみと喪失感でパニックになるかと思いきや、意外と冷静な自分がいる。
もしかしたら、後からガツーンとくるタイプの出来事なのかも知れない。
ここぞと言うときに泣かない自分を意外な気持ちで傍観していたら、ココロの友(と勝手に私が思っている)の絵本おじさんから追悼企画(?)への参加を依頼された。
これは感情や感性にやたらに包帯を巻くなよ、という天啓のような気がして、想いが膿んでしまわぬうちに、ちゃんと長新太さんとその作品への自分の気持ちを見つめ直してみることにした。
 
何よりも自分自身が不思議だったのが、「大好きな人が亡くなったのにどうしてこんなにすんなりとそれを受け入れる気持ちになれるのか?」ということだ。
もちろん、はっきりと明快な理由なんぞ見つかるわけもないのだが、多分正解に近いのは、私にとって長新太という人はもともと生死を超越した存在だったのだろうということだ。

誰にも真似のできない作品を作り出す畏怖すべき才能に出会ったとき、その瞬間からその人は私の心の中で永遠の命を持ってしまう。優れた芸術家とはそういう意味で不死身の人々なのだと私は思っている。
特に長さんの作品世界は「個性的」なんていう言葉が陳腐に思えるほどぶっ飛んでいたので、私には彼が普通に日常生活を送る様子が想像できなくて、何となく仙人のようなイメージを抱いていた。もし今後、彼を知る人から「実は彼は石や魚や野菜と話ができた」という話が出ても、さもありなんと信じてしまいそうだ。お会いしたこともなかったので訃報を聞いて初めて実在する人であることを思い知らされた気さえする。

彼の作品を見るたびに私が感じるのは、アニミズムに対する憧れと畏怖に似た気持ちだ。何しろ彼の描く世界では動物はおろか雲も太陽も山も岩もイスも積み木もキャベツも、ありとあらゆるものが「トーゼンなのよ」とばかりにアタリマエに個性豊かな自己主張を繰り広げる。さらに唐突に謎の怪人や物の怪が現れ、容赦なく襲いかかってくる。まったくもって油断のならないスリルに満ちた世界ながら驚くほど緊迫感が無く、気が付くと微妙にユルい結末に不思議と心が癒されている。
この独創的な世界へ、彼は絵本という誰にとってもハードルの低い手法で私たちを誘ってくれた。常人が思いつかないような色遣いもストーリー展開も、彼の手にかかると驚くほどすんなりと私たち一般読者の感性にも受け入れられるものになるのだった。

さて、せっかくなので数多ある長新太作品の中から私のお気に入りを一冊。
名作揃いなので、この期に及んで一冊を選ぶのは大変だった。アマノジャクの私は、他の人がまず挙げないであろう地味な佳作を選んでみた。

4876925674あかいはなとしろいはな―えほんだいすき
長 新太
教育画劇 1996-07

by G-Tools

対象年齢の下限を感じない作品が多い中、この『あかいはなとしろいはな』の深読みだけは「オトナじゃなきゃ、ムリね」と私は断言してしまうのだ。R指定と言ってもいい。なにしろ、つげ義春作品を彷彿とさせるような静謐なエロティシズムがこの作品には感じられる。内容を紹介するにはあまりにも短く凝縮されたストーリーなので、興味のある方は書店か図書館へどうぞ。

 
ひょっとすると、彼の飛び抜けた想像力を思い切り開放するには、現世は少しばかり窮屈だったかもしれない。
この度、あの世でめでたく絵本のカミサマとして八百万の神の仲間入りを果たし、土方久功氏や岡本太郎氏などの芸術バクハツ系先輩カミサマ達と共に、「千と千尋」の油屋のような天のお湯屋で現世の垢を落としつつ、私たちの想像を超える大胆なカミサマ談義をして楽しく過ごしていらっしゃるのかも知れない・・・
そんなことを考えながら、夜空を見上げてみるのだった。
 

【えほんうるふお気に入りの関連記事】
・絵本おじさんの東京絵本化計画/絵本おじさんの怒濤の追悼トラックバック企画
・まんがバカ一代/谷口氏の作家25番勝負〜長新太・メルヘンと狂気
posted by えほんうるふ at 00:36 | Comment(9) | TrackBack(2) | うっとりする絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
無理させまして・・・
でもね今回思ったのは
自分の土俵で記事を書いてTB
してもらうことで 個性的な記事
が集まってよかったなってこと
僕の宝物です。

ここから若干水増し的な部分も
出てくるのは承知ですが
絵本ブログ全体の質を高めていきたいので
えほんうるふさん みんなの見本になる
「らしい」文章、真似できない文章書きつづけてください。

あ〜えほんうるふさんとも本音でいっぱい話がしたいですねえ。
Posted by 絵本おじさん at 2005年06月30日 17:16
えほんうるふ様、はじめまして!
先日は当ブログにお越しくださってありがとうございました。コメントまで残して頂いて、本当に嬉しかったです。
えほんうるふ様のこの長新太さん記事、何度も頷いて読んでしまいました!そうですね、長さんが実は世界のあらゆるモノと会話ができたと言われても、全然驚かないと思います(笑)やっぱりね…位にしか感じませんね。そう考えるとやはりスゴイ人だ!
八百万の神の一員として、今頃実際にキャベツやどろどろ人間やイスやキムチやくらげなんかと一生懸命話しているコトでしょうネ!天国もなかなかオモロイのよ、と歩き回ってるんじゃないかなぁ…なんて勝手に想像して自分を癒す毎日です。
Posted by まりん at 2005年07月01日 10:06
>絵本おじさん

とても素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました。たくさんの絵本ブログに出会えて私も嬉しいです。「おれに にたこは いないかな」と、あちこちをのぞく楽しみができました。

見本になるなんてとんでもないですが、絵本を愛する気持ちと思いこみの激しさなら誰にも負けない自信がありますので、これからもマイペースにえほんうるふ流を貫いていきたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。



>まりんさん

まあまあ、こんな辺鄙なところへようこそ。
まりんさんのコメントを読んでますます確信しましたね、やっぱり長さんはカミサマが似合う。空の上から世界中のコドモ達のアホアホな思いつきや無邪気なイタズラを眺めては「ヨシヨシ」とうなずいていらっしゃることでしょう。
そう思えばほら、何だかココロがあったかい。

Posted by えほんうるふ at 2005年07月02日 00:48
えほんうるふさん…こんにちは。
ご訪問&TBありがとうございました。
「かみさまの仲間入り」とはステキなお言葉。
「享年77歳」と聞いたとき「そんなお年だったの?」でも「まだ77歳だったの?」でもなく「へっ?」という感じだったのです。
自分が小さいころから見てきたはずの長さんの作品は子供たちにも山ほど読み聞かせ…なんだか時空がごっちゃになっているのかもしません。
それはやはり長さんが超越した存在だからなんでしょうネ。
大きくなった子供たちにもう一度絵本を開いて欲しいと最近せっせと図書館で借りてきては部屋の片隅に置いてあります。
Posted by ユミ at 2005年07月03日 09:27
えほんうるふさん、ご訪問いただきまして有難うございます(^_-)
長さんの追悼文(?)拝読させていただきました。ああ、ほんとに。私も同じ世に生きていらっしゃった事が不思議でした。晴れてカミサマになられたのですね。
それにしても文、お上手過ぎる!的確におっしゃりたいことの芯を捉えて書いておられますよね。
自分ちの拙文が激しく恥ずかしいです(>_<)
また参ります〜。私もお気に入り登録させていただきますね(^。^)よろしくです。
Posted by ぷろとん at 2005年07月04日 15:04
>ユミさん

私も享年77歳、と聞いて何だか不満のような納得のようなあいまいな気持ちを抱きました。リアルな数字を出されてもピンと来ないんですよね。
享年102歳、とか言われたらそれはそれで素直に感動してしまいそうです。


>ぷろとんさん

ああ、ようこそこんな辺鄙なところへ。座布団もお茶も出せませんがのんびり冷やかしてってください。
長さんの遺書には「なかなかうまくいった人生だった」とあったそうです。なんとも言えず長さんらしい味がある一文ですね。私もそう言い残してこの世を去れるように毎日を大切に過ごしたいものです。

Posted by えほんうるふ at 2005年07月05日 01:12
こんにちは、えほんうるふさん。
長新太さんは、いろいろな意味で超越していたのかもしれませんね。熱いオモイ聞かせていただいて、ますます、遺された多くの絵本の存在があまりにも大きいのだと確信しました。(1日1冊読んでも1年以上!かかるんですもんねぇ…)
Posted by yosshie-12 at 2005年07月05日 15:48
えほんうるふさん、こんにちわ。
芸術家は人の心に住まうのだ、という思いに、
強く強く共感しました。
長さんは、ちょびひげの仙人でしたね。
お勧めの一冊、一読してみます!
Posted by hirobon at 2005年07月06日 00:54
>yosshie-12さん

わざわざこちらへおいでいただき、ありがとうございます!
確かに1日1冊でも一年以上ですね!でも絶版になってるものも多いと思うのでまずは発掘作業からとりかからねば。


>hirobonさん

芸術家の皆さんのスゴイところは、人の心に住まうだけでなく、ちゃんとそこでお仕事をしてくださることです。いつでも何度でも励まし、癒し、愉しませてくれます。
長さんのことを、私はお写真でしか拝見したことがないのですが、ダリを思わせる風貌でやはりタダモノではない風格が感じられるお顔でしたね。
Posted by えほんうるふ at 2005年07月06日 02:05
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長新太さん…ありがとう
Excerpt: 長新太さんの作品をどれだけ読んできたことでしょう。 たくさんのゆかいで夢のある絵とお話は私たちをいつも心豊かにしてくれました。 心よりご冥福をお祈りいたします。
Weblog: ひまさえあれば
Tracked: 2005-07-03 09:17

『みみずのオッサン』 長新太
Excerpt: 以前、長 新太さんの絵本『キャベツくん』を紹介して以来、 久しぶりにまた読みたくなってしまっていた長 新太さんの絵本を、 とうとう買ってしまいました。 そしたらやっぱりおもしろかった!..
Weblog: ど風呂グ
Tracked: 2005-08-15 00:40