2019年09月26日

究極のミニマリスト

saida.jpg砂漠のサイーダさん
常見 藤代 文・写真

福音館書店 2009年5月
出版社詳細ページ

世の中ミニマリスト流行りである。
極限まで持ち物を減らし、家具すらないガラーンとした部屋で清く正しく美しく丁寧な暮らしを日々重ねていく、そんなミニマリストの皆さんのライフスタイルに憧れる人は多い。
私なんぞもっと初歩的な日々の断捨離すら何度も宣言しては元の木阿弥パターンを繰り返しているので、到底そんな境地に到れるはずはないが、身軽な生活に憧れる気持ちはすごく分かる。

もしかすると、私が今現在所有している目に見えるものの8割ぐらいは、無くても生きていけるものなのかもしれない。
実際、もし今住んでいる家にあるものを潔く全部捨てて、一から生活をリセットしたらどうなるだろう? これは具体的に考えてみると結構スリリングで面白いので暇つぶしにお勧めの妄想である。
もちろん、同居の家族を捨てるわけにはいかないが、とりあえず一旦は一人暮らしだという設定にして考えてみる。(以下、ツッコミどころ満載の文章が続くが笑って許してほしい、なんせ完全な妄想なので。)

とりあえず雨風をしのぐシェルターとなる家さえあれば、それがほとんど中身のない空き箱のようなものだったとしても、とりあえず身を置く場所はあるだろう。うん、家さえあればなんとかなる。
皿や調理道具は、無くても食べに行くか買ってくることにすれば一応食事には困らない。床で食べるのが嫌なら椅子とテーブルが一つずつあればいい。他には、寝具か。マットと毛布が最低1枚ずつ。あるいは寝袋1枚で済ませるか。
着るものは・・・今の自分の仕事では人に会わないわけにはいかないので、ジャケットとワンピ、シャツ、スカート、パンツ、黒パンプスとバッグが各1に下着が各2ぐらいに部屋着が1セットはどうしても必要。でもそれだけあればギリギリ回せるだろうか。
おっと、もちろんスマホと財布(とその中身)がなくては生きていけない。手帳とノートパソコンも今は使っているが、これらはスマホで済ませている人も多いのだろう。あと仕事用には、客先で使う資料ファイルと最低限のメイク用品も要る。(逆にいえば、もし私の仕事が全く外出を必要としないものだったなら、外出着や化粧品も要らないのかも?)

目に見えるものだけでも最低限これだけ必要だ。いや多分もっとだ。
そしてこれだけの所持品で生活を賄うには、実際にはたくさんの目に見えないものの存在に頼らざるを得ない。特に、電気と上下水道と通信環境は、なくなればたちどころに生命をも脅かすということは、先の台風での大規模停電のニュースでシビアに見聞きしたばかりだ。
ああなんてヒトは脆弱な生き物なのだろう。自然界に放り出された場合の生命力など無きに等しい。トホホ・・

と、ようやくここで一冊の絵本を紹介しょう。
「砂漠のサイーダさん」という、写真家の常見藤代さんによる美しい写真で構成されたドキュメンタリー絵本がある。
福音館書店の月刊絵本「たくさんのふしぎ」2009年5月号として発行されたもので、その後残念ながら単行本化はされていないので新刊としての入手は難しいが、図書館ならば蔵書しているところも多いかと思うので、ぜひ取り寄せて読んでみてほしい。
(ちなみに同じ常見さんの著書として、絵本と同じ女性遊牧民の暮らしを追ったより詳しいルポルタージュが集英社からも出ているので興味のある方は参照されたし。「女ノマド、一人砂漠に生きる」集英社新書)

さて、この絵本の主人公サイーダさんは、広大なエジプトの砂漠でたった一人でラクダと共に暮らしている遊牧民の女性だ。絵本の内容は、実際に彼女の遊牧生活に同行してみた著者が経験した、砂漠での日々の暮らしの実際や、好きでそんな生き方をしているというサイーダさんの考えを聞き、読者に向かって淡々とそれを語り伝えるような、とてもシンプルなものだ。

砂漠を移動しながら生活する彼女は、当然ながら家を持たない。持ち物といえば、6〜7頭のラクダと、そのうちの二頭の背中に積み上げた砂漠での暮らしに必要な最低限の家財道具のみ。もちろん携帯も持っていない彼女だが、生きていくのに必要な情報と知識は全て頭の中に入っている。
つまりサイーダさんこそは、日本の都心とは比べ物にならないほど過酷なむき出しの大自然の中で、逞しく一人で生きる究極のミニマリストなのだ!なんてカッコ良くて清々しい生き方だろうか。
何しろ彼女は、私が最初に「これさえあれば・・」と思った家を持たない。スマホどころか携帯も持っていない。持てないのではなく、持たないのだ。定住地で暮らす彼女の家族は皆持っているそうだが、彼女は「ほしくない」のだという。

作中、何より私が心惹かれたのは、絵本の最後で彼女が語ったこの言葉。

「雲の形は毎日変わるし、砂や草の匂いも季節によって変わる。ラクダが生まれたら、毎日、少しずつ成長する。私は生まれてから一度も退屈なんてしたことがないよ。これからもずっと砂漠で暮らしていく。今日はここ、明日はあそこって、毎日毎日、移動するんだ。ラクダと一緒にね」

どこまでも似たような景色が続く広い砂漠でたった一人、一日中誰とも会わず、もちろんネットにも繋がらず、ひたすらラクダと共に歩き、疲れたら休み、お腹が空けばパンを焼き、暗くなったら大地に横たわって眠る。
とてつもなく単調に見える砂漠でのそんな暮らしを彼女はとても豊かに捉え、心から人生を楽しんでいるようだ。素敵だ。

裏表紙でにっこりと笑うサイーダさんの写真を見ていると、色々なことを考えさせられる。
大自然の前に脆弱なのは、全てのヒトではない。そんなことを言ったらサイーダさんに失礼だ。正しくいうなら、都会での便利な暮らしにどっぷり浸かって甘えた日常を送っている「私が」どうしようもなく脆弱なだけなのだ。

自分は単独行動が好きだし孤独耐性もあるほうだと思っていたが、サイーダさんにはとても敵わない。だからこそとても憧れるし、何だか不思議と励まされるような、うれしい気持ちになる。
持つよりも、持たないことが心の豊かさに繋がることもあるのかも・・・・・
よし、きっと大丈夫だ。思い切ってLET IT GOだ。
今日はあれとこれを手放して、代わりに空を星を見上げてみよう。

posted by えほんうるふ at 17:36 | Comment(0) | カッコイイ絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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