2018年07月26日

別れても好きな人

マルラゲットとオオカミ (児童書)マルラゲットとオオカミ (児童書)
マリー・コルモン ゲルダ ・ミューラー

徳間書店 2018-02-20

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毎月、大人絵本会のお題絵本に関するレビュー(のような日記のようなもの)を開催日直前にアップすることだけがこのブログの更新サイクルになって久しい。
絵本は変わらず大好きなのだが、絵本について語ることに疲れているような気もする。
良い絵本悪い絵本談義が昔から苦手で、常に絵本に対しては単純に好き嫌いのみで語ろうとしてきた自分だが、このところそんな私でもさすがに悪書として唾棄したくなるような作品が大手出版社から平然と出版され、感性豊かな幼い子どもたちの元へと届けられる現状にうんざりしている。
絵本の世界に限った話ではないが、ある作品が世に残るかどうか、それを求める人々にきちんと届くかどうかが、内容如何よりマーケティングに左右される現実を思い知らされるたび、律儀に傷つく自分がいる。

実は今回の絵本も、似たようなテーマを扱った別のベストセラー絵本シリーズの影でひっそりと出版されていたものの(そして内容的にはこちらの絵本の方がはるかに素晴らしいと私は推しまくっていたものの)、そのささやかで美しい佇まいのままひっそりと絶版となり、またしても知る人ぞ知る名作として自宅の書棚に安置されていたものだ。
絵本好きの仲間が居て嬉しいのは、そんな私のささやかな推しを覚えていてくれる人がいて、新刊絵本の出版情報に疎い私に、こういった名作の復刊ニュースをいち早く知らせてくれるのだ。
とてもありがたい。持つべきものは価値観を共有できる推し友である。

そんな復刊喜ばしい本日の絵本「マルラゲットとオオカミ」は、実は過去ログで既に一度採り上げている。
ただしその際は、マルラゲットのことを語る以前に私の嫌いなとある絵本シリーズをdisるのに忙しく、マルラゲットはほとんどおまけのような扱いであった。
それでは気が済まないので今回改めてマルラゲット絶賛レビューを書く所存である。


絵本の世界では、現実の自然界での食物連鎖はしばしば無視される。動物たちは肉食動物も草食動物も関係なく一緒くたに仲良しこよしで何食わぬ顔で日常生活を送っていたりする。
私はそれはそれで全然構わないと思う。ファンタジーなのだから、なんでもありだ。
もちろん、敢えてその弱肉強食の絶対法則をベースに双方の攻防を物語にした名作も古今東西にたくさんある。三びきのこぶた然り、おおかみと七ひきの子やぎ然り、ぶたのたね然り、おまえうまそうだな然り、どうぶつさいばん然り・・・ああ、キリがない。

相容れぬ関係だからこそのドラマをいかに描くかというのは永遠のテーマで、とても面白い。
これは想定されるメイン読者である子どもたちへの教育的観点というより単純に私の拘りだが、敢えてその「自然界の大原則」に則って物語を作る場合、その落とし所には作者の本質的なセンスや価値観がモロに反映されるように思えてたいへん興味深い。
つまり、自分にとっての良書・贔屓作家を見つけるのに、かなり信頼できる指標になるのだ。

「マルラゲットとオオカミ」は、その点で私にとってはアカデミー賞ものの傑作である。
別にリアリティを追求しているわけでもなく、充分絵本らしいファンタジーである。
絵自体はものすごく上手なわけではないが、色使いと構図がとてもいい。
私は絵本に登場する狼の作画にはかなりうるさい方だがこの絵本はその点ももちろん合格。とても素敵なオオカミだ。
そしてこの絵本の何よりも素晴らしいところは、子どもにも理解できる無理のない話の流れで、無邪気な親愛の情がやがて愛ゆえのエゴになり、それが破綻した時に子ども自らが「愛するがゆえの別れ」を選ぶまでの大きな心の成長の過程を描いているところだ。
エンディングの余韻がまたなんとも良いのだ。胸が締め付けられるが、そこにはあたたかさもある。
読むたびに、地味だけれどすごく素敵な映画を観たような満足感に満たされ、ああ絵本っていいなぁとしみじみ思える。ベタ褒め(笑)。


ところで、前述の過去ログでケチョンケチョンに切り捨てた件の感動ベストセラー絵本シリーズだが、私はやはり未だに好きになれない。
ネットを検索しても悪評価の方が探すのが難しいぐらい相変わらず絶賛されまくっているし、私が信頼する絵本好きの友人たちもほぼ皆さん一定以上の評価をしているのだから、きっと間違いなく価値ある作品なのだろう。
でも、私は嫌いだ。どれだけマジョリティに絶賛されていようが、私は私の世界の中心でこれを叫ぶ。

ちなみに件の作家氏は別の著書内で「童話作家ほどオイシイ商売はナイ」と豪語しているが、確かに徹底したマーケティングによる「売れる作品づくり」の大成功例として、これほどの好例はないのかも知れない。
そういえば、同じように一攫千金を狙って自己流の読者マーケティングに基づいた絵本もどきを作り、マスコミで話題になって一時は持て囃されたものの、あっという間に馬脚を現した某自称「世界一の絵本作家」がいる。読者ではなく消費者向けに特化した作品作りをすれば、どれほど稚拙でお粗末なクオリティでも売り方次第では売れてしまう、というこれまた残念な好例である。

だが、売らんかなで作られた絵本、子ども向けを装って実際はそれを買う大人向けに媚びまくった絵本。作り手というより売り手の計算が紙面から読み取れてしまう時点で私にとってそれらは一様に唾棄すべき濫造商品でしかない。
出版社も書店も営利企業である以上、売れてなんぼであることは仕方がない。それでも、仮にもこの国の文化形成を担う産業の一端として、せめて子ども向けの絵本や児童書を扱う部署にはそれなりの矜持を持って仕事をしてほしいと願わずにはいられない。
posted by えほんうるふ at 09:41 | Comment(0) | 日々のつぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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