2018年05月24日

遺された本当に豊かな時代への夢

だるまちゃんとかみなりちゃん (こどものとも絵本)だるまちゃんとかみなりちゃん (こどものとも絵本)
加古 里子

福音館書店 1968-08-01

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大型連休の終わりに飛び込んできた、加古里子さんの訃報。
全国の絵本好きのご家族は、大好きなおじいちゃんを喪いどれほど悲しんだことだろう。
思えば我が家にとっても、親子2代に渡りこれほどにたくさんの作品に親しんだ作家さんは他にいない。
あまりにもその存在が当たり前になっていて、ご高齢であることは知っていても、いつかお別れが来ることを想像すら出来なかった。

既にたくさんの方が、素晴らしい絵本の数々を遺してくれた加古さんの功績を讃え、惜しみない感謝と追悼の意を表している。
遅ればせながら、私もここで私なりに加古さんとその作品への想いを綴っておきたい。


子どもたちが幼かった頃、私が絵本を選ぶ時に漠然と想定していた絵本のタイプが三種類ある。
主食絵本、副食絵本、おやつ絵本だ。
主食絵本は一日何度でも食べるもの。夢と生きる力を与え、心を育てるものがたり絵本。
副食(おかず)絵本は、知識と知恵で頭と身体を育てる知識絵本や科学絵本。
おやつ絵本は、子どもたちがハッピーになれるなら、ジャンクでも何でもありのお楽しみ絵本。
そんな分け方をついしてしまうのは、私が自分の母親業を食事をメインに考えているからだろうか。
そして加古さんの絵本は、我が家の副食絵本として不動のリピート率を誇っていた。
一言で言って、加古さんの絵本はどれもこれも「栄養たっぷり」なのである。
しかも、おいしい。おいしくて頭も心も強くなるなんて最高じゃないか。
本当に、全ての子どもたちに味わって欲しいと思える作品ばかりなのだ。

私自身と加古さんの絵本との出会いは相当昔に遡る。
幼いころ、父の知人が来訪の折、何冊かの絵本を子どもたちにと置いていってくれたうちの一冊が、加古さんの「とこちゃんはどこ」だった。
私は飽きること無く毎日その絵本を開き、隅々まで時間をかけて眺めたものだった。
実家は商売が忙しく、家族揃っての外出の機会はめったに無く、幼い私の行動範囲はひどく限られていた。
だから私はとこちゃんとその家族と一緒に色んな場所へ出かけ、色んな人に出会った。
それはわくわくする体験だった。乏しい私の生活経験値をどれほど補ってくれたことだろう。

この作品に限らず、かこさんの絵本にはいつも、溢れるほどのモノが描かれていた。
「ことばのべんきょう」然り、「からすの○○やさん」シリーズ然り、だるまちゃんシリーズ然り。
圧倒的な物量と選択肢。その眩しいほど豊かな世界に幼い私は惹きつけられ、うっとりと憧れた。
その作風はまさしく、「○○がほしいよう」と無い物ねだりをするだるまちゃんに、なんとか応えてやろうとあらん限りのものを並べてみせる、子煩悩な父親だるまどんの姿に重なる。
絵本を目にする子どもたちに一つでも多くのものを見せてあげたい、一人でも多くの子が自分だけのお気に入りを見つけられるようにという、みんなの父親たる加古さんの、大きな愛と溢れるサービス精神の顕れのように思えるのだ。
或いは、加古さんご自身が、欲しくてもモノが無かった幼少期を経て、一気に生活が豊かになった高度成長期に父親になったことを思えば、絵本に表すことで時代の恩恵を全ての子どもたちに等しく享受させてやりたいと考えるのはごく自然な姿だったのかもしれない。

とにかく、加古さんが描く絵本には、人類の英知と進歩を信じる未来への夢と希望が満ちていた。
果たして、彼が子どもたちの未来にと思い描いた時代は来たのだろうか。
確かに技術は進歩した。雲の上のかみなりちゃんの家の生活の一部は、既に我々の日常になった。
でも残念ながら、人間がそれに見合う成長ができているとはとても思えない。それどころか、便利な世の中で人はどんどん馬鹿になっているような気さえする。
そんな時代の流れを、加古さんはどんな気持ちで見つめてきたのだろう。
まだまだ遠いと思っていたからこそ、晩年もあれほど精力的にお仕事をされていたのではないだろうか。

たとえどれほど道が遠かろうと、残念な遠回りの途中であろうと、加古さんが遺してくれた子どもたちの笑顔が輝く未来への夢を、私たちは忘れずにいよう。
加古里子さん、ありがとうございました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
posted by えほんうるふ at 08:30 | Comment(0) | 日々のつぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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