2017年07月27日

愛しきはみ出し者たちの城

アンドルーのひみつきちアンドルーのひみつきち
ドリス・バーン

岩波書店 2015-07-08

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秘密基地。
嗚呼、なんと甘美な響きのする言葉だろうか。
別にそこに引きこもって悪巧みをしたいわけではないが、とにかく人知れず安心して過ごせる自分だけの場所が欲しい。
それは老若男女に関わらず、ある程度自立心を持った人間ならば誰でも持っている感情ではないかと思う。

以前このブログで佐藤さとる氏の「おおきなきがほしい」を採り上げた時にも書いたが、私も幼いころ友達と一緒に秘密基地を作ったことがあった。
作ったと言ってもせいぜい築山に石を運び込んで竈に見立てたり、自然に生えている蔦を引っ張って間取りの境界にしたり、茂みを手で押し広げてくぼみを小部屋と称したりという、理想の巣作りのへの創意と工夫の殆どが想像力で補完されるような他愛のないものだったが、それでも、そういう「場」が実際にあるというだけで、さらに幼い頃のおままごととは一線を画した充実感を感じていたのも事実だ。

今日の絵本、「アンドルーのひみつきち」の主人公アンドルーは、次々と訪れるワガママな施主たちのオーダー通りに、バラエティに富んだ秘密基地をたった一人で、限られた材料と工具で、しかも一日三棟という驚異のスピードで作り上げてしまうミラクルな匠である。
しかも、それぞれの秘密基地は小規模ながらかなりの建築技術を要しそうな難易度の高い建物で、施主である個性豊かな子ども達の夢をきっちり実現した心憎い意匠となっている。もし私が初めて秘密基地に憧れる年頃にこの絵本に出会っていたら、間違いなく夢中になってしまっただろう。

しかしながら、全く建築工程を見せること無く一瞬で施工完了する見事な秘密基地の数々を見ていると、絵本だからってファンタジーにも程があるよな・・・と若干鼻白んでしまうのは、私の心が汚れているからだろうか。

いやいや、そうではないと思いたい。
思うに、人が秘密基地を切望する気持ちには、それに先立つ「誰にも邪魔されず思い切り○○をしたい!」というオタク的な行動欲求と「城を持つことで自分のIDを人知れず主張したい!」という隠しきれない承認欲求とが、少なからずあるはずなんである。ただ単に今いる場所から逃れたい、という逃避願望だけならば、秘密といいつつ実はみんなに見せびらかしたい基地なんてものをわざわざこしらえずに、もっと目立たぬありふれた場所にこっそり潜伏すればいいのだから。

であればこそ、である。
こんな安直な「アンドルー!ぼくも秘密基地がほしいよぉ!」「はい、できました!」
なんてドラえもん的な超速展開ではなく、依頼者それぞれの秘密基地への思い入れだのコダワリだのをいかに限られた資源で実現するかという、それこそ施主と匠との丁々発止のやりとりの過程があってしかるべきではなかろうか。
いや、この絵本の主題はそこじゃない!子どもにとって絵本とは無邪気な冒険心とささやかな自立心とをすんなり盛り上げてくれるワクワクするようなファンタジーであることが重要であってだな・・・などと仰る向きもいらっしゃるかも知れない。
それはそうかもしれないが、そこに敢えてツッコミを入れてこそのオトナノトモである。
私は個々の子どもの夢の実現の過程が観たいのだ、過程が!
憧れが魔法のように一瞬で叶ってしまっては味気ないし、ありがたみも半減である。
素敵な絵本ではあるけれど、その辺りの描写がそっくり省かれてしまっているのが何とも片手落ちというか、私にとっては歯がゆい作品でもある。


ところで、この絵本が個人的にタイムリーだった理由がもうひとつ。
高校生になった息子が学校で進路指導の話を聞いてくるようになり、いつの間にか建築関係の仕事への興味を口にするようになった。
今までは趣味の釣りの延長で水産や海洋研究等の仕事に興味を示していたので、親も何となくそんな系統の進路を想像していただけに、その方針転換はかなり意外で家族の皆がびっくりしたものだ。
実際に彼がこの先どんな仕事に就くことになるのかはまだ見当もつかないが、思えば確かに彼は幼い頃からモノづくり系の遊びに夢中になってきた。その傾向は今も変わらず、学校でも美術や技術の授業で出された制作課題に取り組む時は驚くほどの集中力で何やら凝ったものを作り上げている。親としてはその情熱の一部でも主要科目の勉強にも向けてくれれば・・・と思わないこともなかったが、これはこれで好き勝手に伸びるに任せていれば案外面白い方向へ成長していくのかもしれない。
そして、そんな凝り性の息子がもし本当に将来誰かの秘密基地建築を仕事として手がけることがあれば、きっとアンドルーに負けない面白い仕事ぶりを見せてくれるんではなかろうか・・・?
たかが一冊の絵本を読んでここまで幸せな妄想ができるのだから、私も大概おめでたい親である。

【オトナが地団駄を踏む絵本の過去ログ】
posted by えほんうるふ at 07:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | オトナが地団駄を踏む絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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