2015年01月21日

憧れの秘湯

旅館すずめや旅館すずめや
雨宮 尚子 作

白泉社 2009-01

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私の自宅には和室がない。
家族4人で都心のマンションに引っ越した際、
諸条件をクリアした物件はただでさえ収納も部屋数もギリギリで、
物を置かない事が前提の畳敷きの部屋を有する余裕などとても無かった。
あれからもうすぐ10年になる。
フローリングばかりの今の我が家の生活に不満はないものの、
気が付くと、実家に帰省した際や、友人宅や旅先で、
何気なく和室に通された時に感じる安堵感が半端ないのだった。
い草の触感の心地よさに思わず嘆息し、
ああ、ありがたい。
なんて呟いてしまったり。歳だろうか。

自分が生まれ育った家も、畳敷きの部屋こそあったが、
和の歳時記を一つ一つ丁寧に執り行うような余裕や洗練とは無縁だった。
母は和服が好きでそれなりに数も持っていたようだが、
父と共に自宅兼店舗の商売を切り盛りし4人の子を育てるのに精一杯で、
年に1度も袖を通した姿を見たことがなかった。
そんな家に育った私は今でも、
持っている和服は嫁ぐ際に母が誂えてくれた喪服一式のみで、
それすら実家に置きっぱなしの体たらく。

そんな、いい年して次世代に美しい和の世界を継承できる見込みが
まるでない残念な日本人の自分なのだが、
何故だか不惑を過ぎるあたりから妙に和物に心惹かれるようになった。

自分が実際に幼少時に使っていたわけでもないのに、
火鉢やら囲炉裏やら小引き出し等の和家具はもちろんのこと、
陶の器や和服地の小物、千代紙にお手玉、干菓子に練り切り・・・
まるでアンテナでも立っているかのように、
どこへ行ってもいち早く目に止まり、
しばしうっとり見つめてしまうのだ。
これまでの実生活でそう馴染みがあるはずでもない雑貨たちに
これほど心奪われるのは、
やはり、この国に生まれ半生を過ごした者なりに、
心のどこかに刻まれた和物魂が疼くのだろうか。

さて、今日の絵本、「旅館すずめや」は、
そんな私の遅咲きの和物愛を激しく刺激する絵本である。
すずめのおかみが切り盛りする旅館「すずめや」の冬の一日を、
細々とした雑貨と共に紹介するという他愛もないストーリーなのだが、
とにかく、切り絵で表現された和物の絵柄の愛らしさに悶絶する。
また、読み進むほどに、秘湯の宿「すずめや」の
ありそうで絶対にない超絶のおもてなしっぷりに
大人の乙女心がツンツンされること請け合いである。
おまけに、巻末に「和の小物型録」と題した見開きがあり、
各ページに描かれた小物をピックアップして紹介しているという
まさに和物好き雑貨好きの痒いところに手が届く親切仕様。

寒い季節に可愛い和物を眺めて心を暖めるなんて、
若い頃には思いもつかなかった発想だが、
「おこたでみかん」すら縁遠い生活をしている今の自分には
熱い日本茶を啜りつつこの絵本をにこにこと眺める時間が
ささやかな贅沢に思えたりもするのである。
そして最後にはきっとまた呟くのだ。
ああ、温泉行きたい。

posted by えほんうるふ at 11:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | うっとりする絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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