2014年04月24日

春に救われる想い

ピッキーとポッキー (幼児絵本シリーズ)ピッキーとポッキー (幼児絵本シリーズ)
嵐山光三郎・文 安西水丸・絵

福音館書店 1993-03-25

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



桜が咲いたというだけで
僕らの何かが変わる
それは何かと問わないでここまで来た

このくにのどこが好き
このくにのどこが嫌い
そんなことを冬には思いもしない

「さくらのくに」石村吹雪・作詞作曲 より)


あなたは、自分の国が好きかと問われて、YESと即答できるだろうか。
子どもの頃の私は、無知故に、自分の国を好きかどうかなんて考えたことがなかった。
大人になった私は、色んなことを知り過ぎた為に、考えれば考えるほど、
その問いへの答えが出しづらくなった。
そしてとても残念なことに、年を経るにつれ、愛すべき祖国の嫌なところばかり
目についてしまうようにもなった。

それでも、一年に一度だけ、全く忌憚なく迷い無く心から、
日本が好きだ、日本に生まれて良かったと胸を張って答えられる時期がある。
それが、桜の季節である。

今年はうっかり、東京の桜の見頃を見逃してしまった。
旅先から帰ると、もう桜は盛りを過ぎて、雨風に打たれた枝の先に
しぶとく残る花びらが萎れ気味にくすんだ色を見せていた。
桜は散り行く姿も美しいものだが、こうなってしまうと
さすがになんともうら寂しい風情になり、見ていて切ない。
なんだかしょんぼりした気分になった私が
あわてて手に取った一冊の絵本が、
今日のお題、「ピッキーとポッキー」である。

ピッキーとポッキーは、
(作中でそういう説明はされていないが、どう見ても)
一卵性双生児のうさぎのきょうだい。
仲良しの2人がお隣に住む友達のもぐらのふうちゃんと
お花見に行く、というたわいもないストーリーのこの絵本に
幼い私はいたく心惹かれ、季節を問わず一年中愛読していた。

当時も今も、私がこの絵本で一番好きなシーンはもちろん、
主人公の2人がお花見に行くにあたり用意する素敵なお弁当が
見開きいっぱいに描かれたあのページである。
要するに、食いしん坊の私にとって花見とはすなわち、
「旬の食材で誂えた手作りのお弁当を
最高に美味しく頂く為にそれを食べるに相応しい場所へ赴く」
という
食ありきのエンターテイメントであり、
まさに花より団子そのものの行為である、
という刷り込みがこの絵本からなされたように思う。

それでも、何があろうと春になれば桜が咲く、そんな美しい国に育ち、
四季の移り変わりを感じ取っては寄ってたかって皆でそれを愛でようという、
一種の日本人魂のようなものが私の中にもそれなりに育っていったのだろう。
若い頃から集団行動や宴会の喧噪が苦手な私が、
お花見のどんちゃん騒ぎだけは何故か気にならず、
むしろその場に自分も加わりたいとすら思う。
それどころか、春の訪れを誰かと共に喜べるそのありがたさを、
この歳になってようやく、身にしみて分かるようになった気もするのだ。
なにより、なんだかんだ言って年に一度は、
「この国が好きだ!」と心から素直に思い直すことができる、
この貴重な年中行事の機会を、私は毎年心待ちにしているのである。



お花見シーズンのピークが過ぎると、いつも思い出す母の言葉がある。
「桜の木は健気でね、全部の蕾が花開くのを待ってから、散り始めるのよ。」

その話が本当かどうか確かめたことはないが、
その言葉を聞いた時から、大好きな桜の花がなお一層愛おしく思えるようになった。

どこかで桜が開花したと聞いては喜び、
誰もが、自分の住む町で満開になる日を今か今かと待ち望み、
その日がくればこぞって花見にくり出して昼も夜も花を愛で、
あっという間に散ってしまうその儚さまでも愛おしげに見送る。
日本人ならば大抵の人は、この一連の心の動きに共感できることだろう。
もしかしたら、散り行く桜までも愛でるその心の奥底には、
日当りの良い蕾もそうでない蕾も、
条件に恵まれた者もそうでない者も、
それぞれにその花を開かせる時を待ちわびて、
それを見届けた満足感を味わう気持ちがあるのかもしれない。


私にとっては、花見と言えばこの絵本なので、
毎年春が来る度にこのブログでも取り上げようとしてきたが、
何しろ桜は待った無しで、開花の声を聞いたと思ったら
あっという間に散ってしまうため、
結局間に合わずにまた来年と見送るばかりだった。
今年こそ、と思っていた矢先になんと、
この作品で初めて絵本を手がけられたイラストレーターの安西水丸さんが、
東京での桜の開花も目前という去る3月19日に急逝されてしまった。
突然のことに驚き、そして心から残念に思った私は、
せめて、なんとか追悼の意を表したいという思いから、
今年こそ、開花スケジュールとの連動など無視して
絶対にこの絵本のことを書こうと思ったのであった。

1976年の初版刊行から今もその輝きを失わず、
そして私の中のささやかな愛国心を五感から育んでくれた、
素晴らしい作品を遺して下さった安西さんに、心からの哀悼の意を捧げたい。
ありがとう安西さん、
天国のあなたにも、毎年春には、満開の桜が見えますように。


↓お気に召しましたら、クリックで更新励ましの一票を!!↓
人気ブログランキングへ にほんブログ村 本ブログ 絵本・児童書へ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

posted by えほんうるふ at 06:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | 嬉しくなる絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/395411809

この記事へのトラックバック