2005年05月23日

そこの「距離無し」に告ぐ

4834001539わたしとあそんで
マリー・ホール・エッツ
福音館書店 1968-08

by G-Tools


自分で言うのもなんだが、私は表向きには人当たりのよいフレンドリーな人間である。
ここ半年ほど接客のアルバイトをしているが、どんなにムカつく客であろうと本人の前ではにこやかに対応できる自信がある。仕事だと思えば理不尽なクレーマーにペコペコ頭を下げるのだって全然平気だ。
しかしそれはあくまでも営業用の顔。プライベートの自分は、かなり人の好き嫌いがはっきりしている方だ。初対面でニコニコしているからと言って、いきなり10年来の親友のような馴れ馴れしいそぶりで迫ってこられたら、威嚇こそしないがかなり引く。

他人と接するときにお互いが快適でいられる間というものがある。
相手との心理的な距離によって自然と定まる不可侵領域のことを専門的にはボディ・ゾーンというらしい。要するに人間にもそれぞれに縄張りがあり、赤の他人にそれを侵されると本能的にストレスを感じるのだ。
ところが、この距離感が分からない人たちがいる。いわゆる、
空気が読めない人々だ。
彼らに「関係者以外立ち入り禁止」の看板は目に入らない。
見えない壁なんてものともせずに、土足でプライベートに踏み込んでくる。
こちらにそんな気があろうとなかろうと、「友達になって」攻撃。
「私達ってとっても仲良しよね」という思い込みで、好意の押し売りと期待。
彼らは多分、基本的には善意の人々だ。悪意はないからこそ、こちらに拒絶されたと分かると「どうして?!」と拗ねたり泣いたり、ヘタすると逆恨みしてストーカーになったりする。

そんな人々に「これでも読んで出直してきて下さい」と渡したいのがこの絵本。
野原に遊びに来た女の子が、遊び相手になってくれそうな虫や動物を見つけては片っ端から無邪気にアプローチするのだが、突然手を伸ばされて驚いた動物たちはみな一様に逃げていってしまう。
「だれもわたしとあそんでくれない・・」としょげかえり、一人さびしく綿毛を吹く女の子。その姿は抱きしめたくなるほど何ともいじらしい。
ところが、女の子がそのままじっとして音を立てずに待っていると、動物たちが戻ってきて彼女にじわじわ近づいてくる。
彼らは彼らで慎重に相手を観察し、危害を与える存在ではないか確かめていたのだ。
やがて、女の子の周りにはいつの間にか声を掛けた動物みんなが集まり、子鹿がほっぺにチューまでしてくれてハッピーエンドとなる。
この時の女の子の笑顔は本当に幸せそうで、こっちまで嬉しくなる。

社会性のある動物である人間として、誰かと親密になりたいという感情はごく自然なものだと思うが、新しい関係を築くには暗黙のルールがある。
赤の他人→初対面→知り合い→友達というふうに段階を追って相手のバリアを解除する手続きを踏まなければ、拒絶されても仕方がない。
「私を分かって!」と自己主張していいのはかなり関係が構築された後のことだ。
初対面の相手には、謙虚な態度で臨むべし。


ところでネットの世界では、この段階を追うルールを無視できてしまう。
全世界に公開してしまうオフィシャルな顔でありながら、業務用サイトでない限り営業スマイルやフレンドリーな表キャラは必ずしも必要ではない。
良くも悪くも、最初からありのままの自分を晒して気に入ってくれた人だけが見てくれればよいという独りよがりが通用してしまうのだ。(そういう私のブログも思いっきり独りよがりなわけだが。)
また、リンクやトラックバックで相手と自分とのつながりを勝手に作ってしまうこともできる。しかもそれはある意味「私たちってば関係者なの♪」と世間に公表しているようなもので、よく考えると結構怖いシステムである。
だからこそ、こうしたコミュニケーションのルール無視はあくまでもネット上だけの例外であることを忘れてはならないと思う。ネット上でいくら突っ込んだ論議を交わした相手でも、リアルで会ったら初対面同士としての礼儀が必要なのである。
くれぐれも、初オフでいきなりタメ口をきいたりしないように。(自戒!)
  

【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・よるうまれるはなし/yoruhanaさんのシンプルであったかい書評
・OKI*IKU Noteよんさんのセンス・オブ・ワンダーな書評
・週間絵本新聞/さいとうじろうさんの育児経験者納得の書評
・絵本工房店長/溝江玲子さんのコドモの感性に脱帽エピソード
・原体験教育研究会/大西あい子さんの実写版「わたしとあそんで」
・絵本と子どもの本が好き!/hirobonさんの正統派解釈を読んで改めて絵本の懐の深さに感謝する


posted by えほんうるふ at 03:24 | Comment(13) | TrackBack(0) | 大事なことを教わる絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
意外な切り口で驚きましたがまさにその通りです。
この絵本にこの紹介はえほんうるふさんならではでしょう。(すごくおもしろいです)
TBウエルカムです!
Posted by yoruhana at 2005年05月24日 00:06
確かにその通り。
とてもわかります。
好意的でない相手に迫られることほど
苦痛なことはない。

でも・・この文章はさすがにきつい・・。
自分のことを言われているような気になってきます・・。
Posted by at 2005年05月24日 00:25
>yoruhanaさん

早速ご足労頂き恐縮です(^^;)
改めてリンク&トラックバックさせていただきましたのでご確認下さい。

>空さん

>>自分のことを言われているような気になってきます・・。

それは絶対ないですよー!!
何しろ、「距離無し」さん達の特徴は自覚がないことですから(^^;)
少なくとも、私自身が空さんに対しこういう感情を持ったことは今まで一度もないです!
実は(というかモロにそうだけど)私も思い込みが激しい方なので、今回のは自戒を込めて書いた文章だったりします。

Posted by えほんうるふ at 2005年05月24日 01:09
えほんうるふさん
ここのブログは読みでがありますね
単なる絵本話ではなく人生とリンクしている。

ブログの付き合いは難しいですよね
どの距離感でいこうか どこまで自分を出そうか
最初は僕は顔は絶対に出さない ブログのみの
キャラを固めていくとか思いましたが
2ヶ月もたつとえ〜い全部見ろ、
これがおいらの生き方だ〜って
いちばん顔出してる(笑)

えほんうるふさんはここではこんな辛口に書いていますが、直接会うとやっぱり優しい人なんだと思いますよ、ぼくはそう思ってます

それとテレビの件確実に放送日が決まっているわけでもないので、フライングするとやっぱりテレビ局さんにご迷惑がかかると思いまして、ぎりぎりまで引っ張りました。事前に知ってたのは実は空さんだけかな。

Posted by 絵本おじさん at 2005年05月24日 09:58
>絵本おじさん

こんばんは。いつもながら絵本おじさんのコメントには励まされます。

>>単なる絵本話ではなく人生とリンクしている。

立ち上げ当初は、単なる絵本話だったんですけどねー、なんか回を重ねる毎にどんどん話がディープな方向へ突き進んでいるような・・。
こんなに自分の内面を晒してしまっては、もはや正体は明かせません。トホホ。

ここの読者でリアルの私を知っている人は本当にごくわずかしかいないはずなんですが、かなり驚かれます、いろんな意味で。(^^;)
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月25日 00:32
お返事ありがとうございます。
読んだときに頭の中をぐるぐるといろんなことが回っていました。
あまりにも回りすぎて考え過ぎちゃったんでしょうね。
(私も思いこみが激しいので・・・)

でももしかすると気づかないうちに空気の読めない人間になっているかもしれません。
私も気をつけなきゃなぁと思いました。

今回きつい・・と書いてしまいましたが、上で絵本おじさんがおっしゃってるように、結構辛口の文章の時でもふとえほんうるふさんの優しさが見えるときがあります。
きっと優しい方なんだろうなぁと思います。
これは多分思いこみではないと自分では信じてますよ。

Posted by 空 at 2005年05月25日 00:34
>空さん

いえいえ、私は優しい人間ではないです。
人並みの優しさを身につけたいといつも思っています。
空さんのブログには人や子供や絵本へのやさしい思いが満ちていて、癒されます・・。
Posted by えほんうるふ at 2005年05月26日 00:42
すご〜く共感しました。恋愛と同じく、友達関係に求める距離感・付き合い方も相性のうち。あまり考えずともなんとなく続いている友達は、それが合っているのでしょうね。
と言う訳で、これからもよろしく。
Posted by かめちゃん at 2005年05月26日 15:04
>かめちゃん

つきあいが長くなってくると、お互いに距離無しになりがちだけど、かめちゃんは私と対人関係の距離感が近いみたいで、親しさとベタベタをはき違えないでいてくれる有り難き存在です。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
Posted by えほんうるふ at 2005年05月27日 22:35
えほんうるふさん、こんにちわ。
ブログへコメント、ありがとうございました。
この考察は、昔専攻していた社会学の見地に似ている感じがします。
深読みこそ、大人たる醍醐味ですもの〜。
Posted by hirobon at 2005年06月13日 21:00
>hirobonさん

この絵本の味わい方は、hirobonさんの解釈が正統派だと思うのです。穏やかな世界観をそのまま味わっても癒し効果抜群の名作ですよね。
Posted by えほんうるふ at 2005年06月13日 22:29
 人間関係における距離。考えさせられました。私はどちらかというと都会で育ったので、常に知らない人達に囲まれて生活していました。結婚したばかりの頃田舎の人達との関係が出来て、それこそ初対面なのになれなれしい人達に辟易した経験があります。
 世代のよる差もあるので一口に田舎の人といってはいけないのかも知れませんが、常に知り合いとしか関わっていない人達は初対面の人との接し方がわからないんじゃないのかな、なんて感じました。価値観や生活感覚の異なる人との距離の取り方はやっぱり難しいですね。
 それにしても「わたしとあそんで」から話がこういう方向に展開するとは思いもしませんでした。えほんうるふさんの目のつけどころってシャープですね。
Posted by ぴぐもん at 2005年12月09日 20:59
>ぴぐもんさん

田舎流の人付き合いは良くも悪くも「濃い」ですよね(^^;) 仰るとおり、対人関係の距離の取り方の基本は、生まれ育った環境によって培われるものなのでしょう…。
ちなみに私も一度も東京から離れたことのない人間なので、ぴぐもんさんの結婚後のとまどいは想像に難くありません(笑)
Posted by えほんうるふ at 2005年12月11日 23:15
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