2005年05月13日

芸人魂ここにあり

039480001XCat in the Hat (Beg 1)
Seuss Dr. Seuss Theodore Seuss Geisel
Random House Childrens Books 1957-06-01

by G-Tools

catin.jpgキャット・イン・ザ・ハット
―ぼうしをかぶったへんなねこ―
ドクター・スース 著・伊藤比呂美 訳
河出書房新社 2001

世間では新世代お笑いブームだそうで、日頃テレビは報道番組や
映画しか見ない私でも、ちょくちょくその手の若手芸人達が
入れ替わり立ち替わりネタを披露する番組を目にする。
彼らのうちの何割が将来も芸人として生き残れるのだろうか。
私はお笑い界にはさして詳しくないが、それでも、幼児にマネされるような
キャッチーな持ちネタを発案してバカ売れしているタイプのユニットは
案外と寿命が短いモノで、むしろ存在そのものが芸人といえるような、
単純に素の本人をうまく晒しているだけの天然系というか天才肌の人だけが、
後々も場を変えて活躍しているように思う。
つまり本来芸人とは「なる」ものでなく「生まれつく」ものなのだろうが、
フリーターやらニートやらが市民権を得ている昨今では、誰にでも
選択可能な職業の一つとして認識されるようになってきているようだ。

この絵本のメインキャストである謎の猫「キャット・イン・ザ・ハット」は
間違いなく生まれついての芸人である。
突然押し掛けてきて、観客に受けようと受けまいとお構いなしにネタ披露。
呆然とする子ども達と警戒を呼びかける金魚をよそに勝手にショーは
盛り上がり、燃料投下とばかりにこれまた招かざる芸人「モノ1号・2号」
まで登場して、舞台となった家は大混乱に陥る。
ついに観客である子ども達から猛烈なブーイングを浴びると、
「キャット・イン・ザ・ハット」は失望もあらわにすごすごと引き下がる。
彼は目の前の観客を喜ばせたかっただけなのだ。
嵐が去った後の荒れ果てた部屋に残された子ども達が途方に暮れていると、
たった今退場したばかりのあの猫がアンコールよろしく悠然と現れ・・・
気が付けば、雨に退屈していた子ども達は最高の参加型エンターテイメント
を提供されていたというわけである。

この猫のように周囲を圧倒するほどのハイテンションなキャラクターで
過剰なサービス精神でもって一方的な娯楽を提供せずにはいられない
生まれながらのエンターティナーといえば、R・ダールの名作児童書
「チョコレート工場の秘密」に出てくるエキセントリックな工場経営者、
ウィリー・ワンカ氏が思い浮かぶ。
彼も風変わりを通り越して奇人変人の域にいる人だが、その言動は
とにかく人を楽しませたい一心からのもので、一見危険に見えても
基本的には他人を傷つけることなど考えも及ばない善良な人なのである。
「キャット・イン・ザ・ハット」の著者ドクター・スースも、アイデアと
ウィットとサービス精神に富んだ天性の芸人魂を持っていた人らしく、
年代を問わず楽しめるユニークな絵本の数々でその才能を披露している。
彼独特の韻を踏んだ単語が並ぶリズミカルな文体を楽しむには原書で
読むのがオススメだが、「キャット・イン・ザ・ハット」は詩人の
伊藤比呂美氏の訳が絶妙でそのリズム感を損なうことなく読めると思う。
(残念ながら絶版・重版未定である。復刊リクエスト投票はこちらへ)

ちなみにこの作品は数年前にマイク・マイヤーズ主演で映画化されたが、
邦題の「ハッとしてキャット」から予想される通りスベリまくりの演出で
ついに日本での劇場公開は延期されたままにポシャッたようである。
「グリンチ」の国内興行成績を見れば分かるとおり、
Dr.スースの世界観と面白さは邦訳が難しいものだと思われるし、
オースティンパワーズは好きな私も、化け猫扮装をしたマイヤーズは
想像するだに背筋が寒いので未見のままだ。
「キャット・イン・ザ・ハット」のハイテンションぶりを再現するなら
映画「マスク」でのジム・キャリーばりのキレた体力演技が欠かせないので、
(だから「グリンチ」はハマリ役だった!)
オトナ向けのひねったギャグが持ち味のマイヤーズにはきつかったのでは
なかろうかと個人的には思う。
 
posted by えほんうるふ at 00:17 | Comment(9) | TrackBack(0) | 笑える絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
ドクター・スースの絵本ですね。
でもタイトルしか聞いたことがないです。
内容は全く知りません。
でもきっと面白いのでしょうね。
そうか〜、読んでみたいなぁ。

私、「グリンチ」の絵本はあるんですが、映画は見たことがないんです。
ずっと見たいなぁとは思っているんですが・・。
映画も面白いですか?
確かクリスマスものでしたね。
でも見たくなってきたなぁ。見てみようかな。
Posted by at 2005年05月14日 00:30
面白いかどうかは意見が分かれそうな絵本です。
図書館などで探してみてはいかがでしょうか?

グリンチもそうですが、米国ではドクター・スースはとても
ポピュラーな絵本作家らしく、その作風についても
暗黙の了解が通じる面があるんですが、その素地がない日本人が
映画化された作品を見ても「はぁ?」という感じを受けるのは
仕方がないのかも知れません。
ジム・キャリーの芸風のファンでなければ、絵本を楽しむだけで
十分だと、私は思います(^^;)
 
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月15日 00:17
絵本つながりでこうやってえほんうるふさんの
目を通した映画の世界とか知らない世界のこと
を知ることができるって幸せです
それに対しての空さんのコメントがまた空さんの
世界観をしることにもなるし
ああ絵本おじさんになってよかった
えほんうるふさん僕読んでますからね
Posted by 絵本おじさん at 2005年05月15日 12:40
絵本おじさん、こんにちは。
素敵なメッセージありがとうございます。
絵本おじさんのような方が一人でもいてくだされば
私がこのブログを続けるかいがあるってもんです。
「数百・数千のアクセスよりも、縁あって巡り会えた奇特な友達と
ひそかにココロの交流を楽しむサイト」を、これからも目指していきます(笑)
 

Posted by えほんうるふ at 2005年05月15日 16:36
はじめまして。山猫編集長さんのところからきました。

私も、Dr.スースの韻としゃれが好きで(英語の勉強も兼ねて)読んでいました。
息子たちは、もっぱら不思議メカに気を取られていたのですが、私がつっかからずに読めた時には「(リズムが)おもしろいね」と言ってくれました。 意味は??でも、言葉のリズムはちゃんと子どもに伝わるんですね。 でも、このリズム感としゃれを日本語訳で伝えられるんでしょうか?
 伊藤さんの本がとても気になります。 機会があればぜひ見てみたいです。

Posted by ろみぃ at 2005年05月15日 16:56
こんにちは!
えほんうるふさんらしいコメントのお返事で
ちょっぴり笑ってしまいました〜。
でもお返事読んでて、ますます読みたくなったし、
「グリンチ」もみたくなってきました(笑)

私、引っ越したばかりで図書館にはまだ行ったことがないのです。
場所は知っているので、一度いってみます!
さて面白いと思うのか、面白くないと思うのか・・・そう考えただけでなんだか楽しくなってきました!わくわく。(笑)

それとジム・キャリーは嫌いではないです。
“「はぁ?」”もどんなものか確かめたい。

Posted by 空 at 2005年05月15日 19:26
>ろみぃさん

初めまして。オトナノトモへようこそ!
Dr.スースの原書を音読するのは、結構疲れますね。
私の場合、ただでさえ発音が難しいのになぜか早口言葉のように
どんどん読み上げスピードが上がっていってしまいます(^^;)
彼の作品て、(このCat in・・は特に)スピード感が命じゃないですか?
伊藤さんの訳は、ちょっと尻切れトンボな感じがしないこともないですが、
私は好きです。

>空さん

うーん、どのへんが「えほんうるふらしい」のか、気になります(^^;)
空さんにとって、面白い一冊になるといいですね。

Posted by えほんうるふ at 2005年05月16日 00:15
ぼくも知ってますよ、この絵本!
マザーグースなんかと同じく、
韻を踏む独特のリズムや、
文字りの組み合わせナンセンスが、
魅力の要素ですよね。
ユーモアよりギャグに近い感じ。
日本だと、ぼうずがびょうぶに〜♪
の早口言葉を彷佛とさせます。
言葉遊びから生み出される、シュールな風景。
笑いのトリックスターには、
言霊さえ手玉にするのかもしれませんね!
Posted by hirobon at 2005年05月17日 20:41
>hirobonさん

こんばんは。
仰るとおり、ユーモアというよりギャグですね。
頭でというより直感的に面白いと思うかどうかなので、読み手と作り手の文化的なギャップがあるとなかなか理解しがたい面があるのかも知れませんね。

早口言葉といえば、日本にも付け足し言葉という面白い言葉遊びの文化がありますね。Hat in the Catは差詰め、
「ブリキに たぬきに 洗濯機 猪木に えのきに ケンタッキー」
てな感じの勢いですね(笑)
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月18日 01:36
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