2013年03月21日

きっと、いつかまた蘇る

なおみ (日本傑作絵本シリーズ)なおみ (日本傑作絵本シリーズ)
谷川 俊太郎 作  沢渡 朔 写真

福音館書店 2007-10-10

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幼い頃、時々泊まりがけで遊びに行った母方の伯父の家には、市松人形がいた。
寝室の婚礼ダンスの上で、ガラスケースの中から静かに私を見下ろしていたその人は、
幼い私を怯えさせるに十分な貫禄があり、私は一人でその部屋に入ることができなかった。
でも、夜はその部屋に親や兄弟と一緒に寝ることになっていたので、
一生懸命、そっち方向を見ないように布団をかぶって寝たのを覚えている。

後に、この「なおみ」という絵本に出逢ったとき、私は真っ先にあの人形を思い出した。
不思議と「怖い」というより「懐かしさ」に近い感情が心に浮かび、
そのことに自分で驚いた。
私はあの人形にいくらかでも親近感を持っていたのだろうか?

この絵本の主人公である「なおみ」と名付けられたその市松人形は、
その持ち主として登場する6歳の女の子と等身大に作られたものだという。
さすがに圧倒的な存在感があるが、私はどの頁のなおみを見ても怖いとは思わなかった。
その姿は、まさに幼女特有の繊細さと無垢さと美しさをそのまま体現しているようで
神々しいほどに美しく思えたのだった。

まさに作りものならではの完璧な美しさでありながら、
なおみはまるで血が通っているような自然な佇まいで少女の横に佇んでいる。
伯父の家のガラスケースに入っていた市松人形とは全く違う表情を浮かべて。
そこで私は、そうか、と気がついた。
人形は、こうして持ち主の人間に実際に触れて可愛がってもらうことで、
はじめて私たちの側に私たちの側に降りてくるのかも知れない。
そうなってしまえば、どれほど人間離れした美しさであろうと、もはや身内。
怖がるどころか、美しい姉妹として誇りに思えることだろう。


少女に可愛がられ、人形として最高に幸せな日々を送っていたなおみ。
ところが、そんなふたりの蜜月にもいつか終わりが来る。
少女が成長し、お人形遊びから卒業してしまうと、
なおみはまた自分がもといた作りものの世界へと帰らざるを得なかった。
観賞用としてどれほど大切にされようと、なおみはもう微笑むことができない。
饒舌だった瞳はただ光を反射するだけのガラス玉に戻る。
口もきけない、耳も聞こえない。
ガラスケースや桐の箱は、人形たちにとっては棺桶そのものなのだろう。
なおみは、誰かが再び自分を目覚めさせてくれるその日まで、
時の止まった世界で、ひっそりと息を潜めて待っている。


そういえば、桃の節句も近い頃、とある掲示板で興味深いスレッドを見つけた。

「怖い市松人形を。。」(YOMIURI ONLINE 発言小町より)

トピックの概要は、
「娘の初節句にと義両親から送られてきた市松人形がどうしても怖いので、
何かひと工夫して楽しくながめることが出来ないか?」
というもの。

これに対し多くのコメントが寄せられているのだが、
やはり自分も同じように怖い!という意見が多い中、
いっそ着せ替え人形のようにヘアスタイルやメイクの工夫をすすめるものや、
逆に芸術品である人形に手を入れるなどもってのほかと戒めるものなど、
多様な意見が見られ大変面白いスレッドとなっている。

なかでも私が感慨を受けたのは、最後の方に登場する「ルカ」さんという
人形作家さんのコメントであった。

「ガラスケースから出して、触ってみたのは正解だと思います。
人は理解できないものに恐怖を感じるものです。
(中略)
人形が悪いものを呼ぶなんて幻想です。
良く魂が入るといわれますが、それは持ち主の人形を可愛いと思う気持ちが
入るのです。」



思えば、伯父夫妻には子どもがいなかった。
ガラスケースの中のあの市松人形は、誰かに触れてもらえたのだろうか。
あの日彼女は、遊びに来た姪っ子を見つけて、どんなにか自分に触って欲しいと、
切ない念を私に送っていたのかもしれない。

伯父も亡くなった今、彼女は、どこでどうしているのだろう。
願わくば、彼女にもいつか、魂が宿る春が訪れますように・・・。



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posted by えほんうるふ at 21:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 怖い絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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