2005年05月05日

男のロマンとは大いなる無駄である

あ な(こどものとも絵本)あ な(こどものとも絵本)
谷川 俊太郎/和田 誠

福音館書店 1983-03-05
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ジェンダーフリーの概念が一般に浸透しつつある昨今、
男らしさ・女らしさを語るのは時代錯誤なのかも知れない。
それでも女の私から見るとどうしようもなく男は男である。
我が家の家族構成は老若男女がそれぞれ1タイプずついて
それぞれを観察していて分かったことのひとつに、
男とは行動に理由がいらない生き物らしい、ということだ。
いや、女だって後先考えず突っ走ることは(特に私には)
よくあることなのだが、女の場合はそれがある事象に対する
抗議だったりヒステリーと呼ばれる感情的反応の現れだったり
するのに対し、男の場合はその一見馬鹿げた行動そのものが
目的になっているように思えるのである。

「あな」の主人公の少年ひろしは、作中でひたすら穴を掘る。
穴の用途は、特にない。ただ掘るだけだ。
時間と労力を惜しげもなく無駄にして、無目的に穴を掘る。
そこには何の迷いもなく、端から何を言われようと気にせず掘る。

ひろしの父親には、ひろしの行動が理解できる。
そこに何の目的もないことが分かっているから、質問なんてしない。
夢中になったひろしが満足する以前に体力を使い果たし、
せっかくの無駄な努力がただの無駄に終わらないようにと、
「あせるなよ」と声を掛けていく。素敵な父親だ。

ようやく自分の行動に満足したひろしは、掘るのを止めて穴の中に
しゃがみこむ。芸術家が完成した自分の作品を愛でるように、
しみじみと自分がつけた土壁の堀跡に触れて自己満足に浸るひろし。
言葉少ないやり取りから、父親が彼の心に共感していることが分かる。
心ゆくまで達成感を味わったひろしは、立ち上がって穴からはい出すと、
また一人で穴を埋める。ここで読者はひろしの目的は「掘ること」
だったのだと思い知る。穴を埋めてこそ、ひろしの作業は完成するのだ。
最後のページは、何事もなかったように元通りになった地面。

幼いコドモは性別に関わらずこういう無駄な事を夢中になってやる。
それがいつの間にか、女の子から先にその無心な遊びから卒業して
しまい、同級生の男子を見て「ガキねぇ」なんて思ったりする。
この時期からいきなり男女の精神年齢に差がついてしまうのだが
それはもう生物学的に定められた法則なのかもしれない。
子供を産めば否が応でも母として大人にならざるを得ない女に対し
死ぬまでコドモでいようと思えばいられる男たち。
(もちろんコドモのまま母親になってしまった女性や、父親として立派に
成長して責任を果たしている男性も大勢いる。分かってますって!)
そのせいか、無邪気な幼児の頃と変わらない情熱で無為無益なことに
金と労力を費やし「オタク」や「道楽者」として周囲に認知されるほど
徹底して趣味を極めてしまうのは、やはり男性が多いようだ。
小憎らしいことに、こうした「少年の心を忘れない」壮年男性の中には
不思議なほど老けずに人間的魅力にあふれる人も少なからずいたりして、
かくして大いなる無目的の成果が男のロマンとして美化されていくのだ。

私自身のこの絵本との出会いは確か小学校3,4年生の頃で、
近所の耳鼻科の待合室にあったのを読んだのが最初だ。
当時の感想は「やりたいことを好きなだけやれていいな」ぐらいのもの
だったと思うが、隣にいた母の感想は「あら、せっかく掘ったのにもう
埋めちゃうなんて、もったいない!」みたいなものだった。
幼心に「分かってねーなー!」と思ったのをおぼろげに覚えている。
そんな母は還暦をとうに過ぎてなお男のロマンを捨てきれずにいる
(というより単に自己中なオスガキから成長していないだけの)父と
未だに価値観の相違で四六時中もめている。
どっちの諦めが悪いのやら。

お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 23:18 | Comment(18) | TrackBack(0) | カッコイイ絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラバ、コメントありがとうございます!
←絵本ブログってたくさんあるんですね。
ビックリしました。

ひろしの父の言動は、まさに「男」なんですね。
なるほど〜とうなずきながら読みました。
そして、コドモ。
本当にちっぽけなことも夢中になりますね(笑い)。
息子のブームは、トイレの水が完全に止まるまで
近くで見つめつづけること、
電車の到着アナウンスを1日中繰り返すこと。

えほんうるふさん、また遊びにきますね。
・・・しかし、ネフが6つもあるなんて、うらやましい限りです!!
Posted by マユキチ at 2005年05月07日 16:25
そっか 穴のはなしはここにつながるんだあ
(えほんうるふさんだけがわかってね)

そう これ好きなんですよ
子供向けだけの絵本ではないですね普遍です
このおやじいいですよね 男っていいですよね
この感覚がわかる人は素敵だ
Posted by 絵本おじさん at 2005年05月07日 18:08
コメントいただき、来てみて衝撃。
ココに!まともな絵本ブログの世界が存在している・・・。そうそう、「読み聞かせ」って子どもに媚びてる感覚がちょっと違うんですよね。うなづいちゃいました。

いろいろと楽しませていただきました。
よかったら、私も←「絵本とその周辺」のお仲間に入れてくださいませんか?
ケド、私、『天然生活』系雑貨も好きなんです♪
Posted by tamari at 2005年05月08日 01:09
男はムダなことが好きですね。
ワタシのまわりも、かなりムダなことに情熱と時間とをつぶしてる男たちが大勢いますよ。
ワタシも、そう!
なぜか、やめられないもんなぁ。なぜだ?
わからん。(^^)
--(や)--
Posted by 山猫編集長 at 2005年05月08日 10:03
えほんうるふです。
みなさん、コメントありがとうございます!!

>マユキチさん
オトナノトモへようこそ!
絵本レビューのブログって本当にたくさんあって、全部リンクしていたら
キリがないので、私の独断と偏見で「作品への愛とコダワリ基準をクリア
している」と思った一部のサイトさんだけしか絵本リンクに載せていません。
それだけに、「絵本とその周辺」でリンクしているサイトの面白さは保証します。

トイレの水ぐるぐるも子どもが喜ぶモノのひとつですね。水関係といえば、
洗ったフライパンを乾かそうと火に掛けた時の、水滴が一つずつ蒸発していく様も
きっと夢中で観察しますよ。火傷に気を付けて、お試しあれ。

neafは最初はオトナの道楽のつもりで買ったのですが、子ども達に奪われて
既にあちこち痛んでいます。このほうが玩具冥利に尽きるのだろうと諦めてます。

>絵本おじさん
気づいて頂けてよかったです。一緒に穴を掘りますなんて怪しすぎますよね(^^;)
男っていいなぁって本当に思います。羨ましいという意味じゃなくて、
異性の持つ特質のそういうところが好きだなぁとしみじみ愛おしく思うのです。
女の私はせめてよき理解者でありたい。

>tamariさん
オトナノトモへようこそ!
まともな絵本ブログだなんて、ありがたいお言葉ですが
ウチはハナから異端を目指してますんでそんなハズはないんですよ(^^;)
tamariさんのところは絵本以外にも私の好きな系統のコンテンツが
充実していらっしゃるので、(実は私、玩具や輸入雑貨にも結構ウルサイです)
絵本周辺というより「その他お気に入り」に入れようかちょっと迷いました。

>山猫編集長
それは編集長が男のロマンをかなり本気で遂行してしまうタイプだからですよ!
そして類は友を呼ぶ、と。でもそこになぜか私も呼ばれているということは・・
「えほんうるふ=ネカマ」疑惑浮上か(^^;)?
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月08日 18:27
ははは、男のロマン! いい響きですね〜。
(こんにちわ)
「浪漫」と書くようにロマンは、客観的生産性とは無縁の、
飽くなき挑戦なんじゃないでしょうか?
ひろしと言えば、「川口ひろし」探検隊も(笑)
山男の言う、「そこに山があるから登る」だって。
「あな」はそんな楽しい挑戦を、淡々と描いているところが、
また味わい深い気がします。
Posted by hirobon at 2005年05月09日 20:30
hirobonさん こんばんは。

川口ひろし探検隊は分かり易いですね。(歳がバレる)
あの馬鹿馬鹿しさが男のロマンの真骨頂?
いや、バカになれる男こそがカッコイイと私は思うのです。

一方、生産性と無縁でいられない貧乏臭さが女の性ですねー。
割り切って逞しく生きるオバチャンもまた、カッコイイ。
Posted by えほんうるふ at 2005年05月10日 00:32
仲間入りに、思わず、ニヤリッ。
あ〜、この達成感と充足感!
絵本ブログはじめて、
いつもフラフラした海月気分だったんですが、
何だか素直にうれしい♪です。
認めてもらえるってやっぱ活力ですね。
うちのアクセス数向上↑は、多分オトナノトモのお陰かしらん?
やっぱ、絵本紹介するしかないわネ。
Posted by tamari at 2005年05月10日 14:17
>tamariさん

そんな風に喜んでくださるのはたいへん光栄なのですが、
私は自他共に認める偏屈コダワリ野郎なので、ちょくちょく自分の
リンク先の更新情報を拝見させて頂き、もはやココの趣旨に合わない
サイトだと思えば外してしまうこともありますのでご了承下さいm(_ _)m
ちなみに私のサイトはアフィリエイトがメインではありませんので
アクセス「虚」数アップには全く興味がありません・・。
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月11日 01:11
えほんうるふさん

それは誤解です。私はアフィリエィターではありません。
超初心者レベルでお恥ずかしいのですが、顧客サービスとして、せっかく遊びに来てくださった皆さんに、少しでも楽しんで頂けたらと窓を沢山つくっている次第です。目的の違うサイトは、もっとギュウギュウでみっしりしてますよ!(笑)
でも、↑私のコメント「アクセス数UPのために絵本紹介するワ」って読めちゃいますね。
私の文章力のなさにトホホです。

ブログをはじめたのは、
子どもがいて、いろいろな世界にはまる楽しさ。絵本もだし、木の積み木の尺とか、ネフのおもちゃとか、色鉛筆の世界、人形の大きさとか、、、。独身時代には味わえなかった、子どもがいるからこそ楽しめる暮らしを、ちょっとでも紹介して共感してもらえたらな〜っと思ったからです。絵本は毎晩読むもので。

でも私、アクセス数は気になるんですよね。虚数だけど、書くからには反応が欲しいです。
だって私、個人的な日記は、博文館の赤い日記帳にちまちまと綴っているんですよ。
・・・ということで、新着記事楽しみにしています。
「あな」と全く関係なくなってしまって、ごめんなさい。おしまい。
Posted by tamari at 2005年05月12日 23:52
ああ、なつかしいです。
わたしはとっても好きですけど。
わたしのまわりでは、あのお父さんの態度には
いろいろ異論がありました。
Posted by パイポ at 2005年05月15日 20:07
>パイポさん

お父さんへの異論というのは、「分かってない」
という意見だったのでしょうか。
私は勝手に男同士っていいなぁなんて思ってました(^^;)
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月18日 01:10
というよりも、わかったふりをしているという意見です。わたしは素直にすてきなお父さんだなあと思っていましたが。
Posted by パイポ at 2005年06月06日 05:33
わかったふり、かぁ。ひろしの理解者が誰もいないとなると、さすがに孤独すぎて切ない話になってしまいますね(笑)。
 
Posted by えほんうるふ at 2005年06月08日 00:54
えほんうるふさん、こんにちは。

「こどものとも」ブログのTBを見て、こちらへ来ました。えほんうるふさんの記事を読んで、どうして自分が『あな』の書き出しの部分にあんなに感銘を受けたかがはっきりと、わかりました。私が「男ではない」からなんですね・・・

コメントの中で、
>女の私はせめてよき理解者でありたい。
と書かれてますよね。「見上げた空の青さを覚えていたい」と私が思ったのも、きっとこういう気持ちからだったのだと、ここでも、すっきりしました。
Posted by ruca at 2005年11月29日 15:57
>rucaさん

「こどものとも」ブログは本当に中身が濃くて面白いですよね。みんな大好きなはずなのに、コメントやトラックバックがなかなかつかないのは企業ブログへの遠慮があるのでしょうか…。もっと盛り上がって欲しいなーと、いつも思っています。

ところで「男女の行動パターンの違い」という面で、読み比べると面白いのが片山令子/健夫妻の「あな」です。こちらはうさぎの女の子が穴を掘るんですが、掘った穴をせっかくだから何かに使おうと考えるところが「やっぱり女だなぁ」という気がして、すごく微笑ましいのです。機会があったら読んでみてください。
Posted by えほんうるふ at 2005年11月30日 01:14
こんにちは。
僕も「あな」についてブログに書きました。(今週の金曜は飲みの可能性大のため、先に書いちゃいました)
まっさらな状態で書こうと思ったので、敢えてここに来る前に書きました。
なるほどジェンダー的視点から捉ても楽しいですね。
そういえば、ダンスィー関連絵本と言われていましたよね。意味が分かりました^^。
読む人によって色々な視点で切ることができる味わい深い絵本。さすが谷川俊太郎さんです。
大人絵本会関連で『「あな」の書評書きました』というツイートいくつかありましたね。
これから探して行ってみます^^。
Posted by sigeki at 2010年06月14日 20:45
>sigekiさん

わざわざこちらまで出向いていただきありがとうございました。
まっさらな状態で・・というの、よく分かります。私もブログで取り上げていない絵本を大人絵本会でやるときは、絶対に開催前に自分の考えだけでここで書こうと思いますもの(笑)

今回のお題も深読みしがいのある絵本なので、どんな話が出るか楽しみです^^
これからそちらのブログにもお邪魔しますね〜
Posted by えほんうるふ at 2010年06月15日 21:48
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