2005年05月02日

第三のがらがらどんが見つからない不幸

三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
マーシャ・ブラウン
福音館書店 1965-07


by G-Tools

今どき「リーダー」といえば、目に付くのはどんなキャラクターの人だろうか。
根回し上手で口の立つエリート官僚や、年功序列にあぐらをかき、実権は何も持たない形だけの「長」や、成功体験を振りかざして自分の非常識さを省みないワンマン社長・・などといったイメージが浮かんでしまうのだが、多くの場合彼らは疎ましがられこそすれ、決して憧れの対象とはならない。
ミスチルの歌じゃないけれど、今の若者の多くが延々と続く自分探しの旅から抜け出せなくなっている原因の一つに、目標となる憧れのリーダーの不在を挙げてもハズレではないだろう。

「三びきのやぎのがらがらどん」の三匹は、「なまえはどれもがらがらどん」なのだが、彼らの関係の詳細は語られていない。私には、三匹が単に同グループに属していると表していることで、それが普遍的な「共同体」のありかたとしての一つのモデルを表現しているように思える。そこには、守るべき弱い仲間と、それ以外の仲間と、強くて頼りがいのあるリーダーがいる。この構成は単純で安定したプリミティブな人間社会を暗喩しているように思えるのだ。

ここに見るからに恐ろしいトロルという敵が登場するが、小さくて弱い仲間もその他の仲間も、このトロルとの接触を全く恐れていない。自分より上の仲間への揺るぎない信頼をもとに、平然と躊躇せずに先へ進んでいく。
そこへ待ってましたとばかりに登場したおおきいやぎのがらがらどんは、当然のように自ら進んで敵と対決し、打倒し、悠々と仲間たちに合流する。
その姿は惚れ惚れとするほど堂々としていて、信頼を揺るがす不安定さなど微塵も感じさせない。滅茶苦茶カッコイイのである。しかもそれでいて、自らの立場を驕ることなく仲間と肩を並べて無邪気に草を食んでいる。
なんと幸せに安定した共同体だろうと思う。

しかしやはり、この無邪気な平和は動物の世界だからこそなのだろう。
人間は力を持つといつの間にか権力という化け物に取り憑かれる。トロルよりも恐ろしいこの魔物は、一度取り憑いたら容易には離れない。
かくして、絶対的な力を崇められ、人々から尊敬され頼られるカッコイイ存在だったはずのリーダーは仲間から恐れられつつも蔑まれる怪物となっていく。

おおきいやぎのがらがらどんのように、持てる力をあるがままに行使して自分と周りを幸せにする、それだけで充分というシンプルで無欲な心を持つリーダーはいないものか。
いや、第三のがらがらどんはきっとあなたの身近にもいるはずなのだが、自己主張の激しい権力主義者達の陰になったまま、彼に出会えた幸運な一握りの人々だけをひっそりと幸せにしているのかもしれない。


なんだか堅い話になってしまった。それでは今日はこのあたりで、
チョキン、パチン、ストン。
はなしは おしまい。
 
 

【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・OKI*IKU Note/よんさんの絵本と出会うタイミングの妙にうなる話

・H.I.D./hideさんの爆笑がらがらどん漫才

・書店員/高倉美恵さんのがらがらどんで思い知る世の中の不条理

・手当たり次第の本棚/とらさんの悪役トロルのキャラクターについてのためになる話




posted by えほんうるふ at 00:16 | Comment(11) | TrackBack(4) | カッコイイ絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
えほんうるふさん、こんにちは。
いつもながらに独自の視点からの切り口、
なるほどなあ〜と思いながら楽しく読ませていただきました。

おおきいやぎのがらがらどん、確かにすごくかっこいい。あんな仲間がいたなら、恐いものなしでしょう。

ただ、現在の「リーダー像」ってどうなのかな…
企業が能力主義に走る昨今、

>年功序列にあぐらをかき、実権は何も持たない形だけの「長」

というリーダーは減ってきているのではないかというのがわたしの実感です。大企業にはまだいるのかもしれないし、官僚には確かに、えほんうるふさんが書かれているようなイメージを抱いているのですが。

企業の現場に入れば、憧れの対象となるリーダーはいると思うのですよ。でも今の若者達、最初から「組織に属するなんてくだらない」と真剣勝負を避けてしまっていることも多いのでは? 勝負に挑まなければ自分探しの旅を終えることはできないんじゃ、という気がします。

おっと、絵本の話からそれてしまいました。
『がらがらどん』、ど迫力で大好きなんですが、うちの長男は「こわい〜」と逃げてしまいます。臆病者め〜。
Posted by よん at 2005年05月02日 12:19
よんさん、こんにちは。コメントどーもです。

うーん、私も書いてしまってからさすがに「年功序列」は時代錯誤だなぁと思ったのですが、つい先日町内会の役員会でそういう例をみたばかりだったので(^^;) 
政治家にも定年制論議に抵抗して老醜をさらしている人たちがいますよね。本人はただ「一番上」の立場でいられればよくて、実際に行動を起こしたり人を動かすのは秘書だったり側近だったりというのは、端から見るとだだっ子を飴で黙らせて言うとおりにさせる手抜き親みたいですが、結局双方にとって都合がいいのかも知れません。

若者たちの行動については、よんさんのおっしゃるところもごもっともだと思います。どんな進路にせよ現場で目標となる人物を自分から見つけだそうという意志が無ければ見つかりっこありませんし、目の前にいたって見えませんよね(^^;)
ただし、必ずしも企業に属する必要は無いと私は思いますし、「勝負をしない生き方」もまたありだと思います。
あと、よんさんのコメントを読んで私はリーダーがいないと言いたかったワケじゃなかったことに気が付かせて頂いたので、少し修正します。ありがとうございました。
Posted by えほんうるふ at 2005年05月02日 13:45
そうですね、わたしも必ずしも企業に属することはないと思います。(わたし自身、フリーランスですから…)どんな生き方もありだと思うのですが、「自分探し」というのであれば、きっと何か真剣に取り組むものが必要なのではないかと思います。その「真剣」を「勝負」と表現してしまったのでした。

なんだか主題から外れたコメントだったのに、丁寧にご返信いただきありがとうございました。
Posted by よん at 2005年05月02日 18:27
こんにちわ!
大好きながらがらどんだったので、TBさせていただきました。
第三のがらがらどん、問答無用で格好いいですよね〜!

みなさんがおっしゃるように、今の社会にはなかなか、
こんなリーダーは見当たらないのかもしれません。
カリスマやエッジなんて言葉が流行り出し、
若い世代は心底に尊敬=リスペクトでき得る、
新しいリーダー像を探しているとも言えます。。
親分よりは、師匠を欲しているのかなあ。

でもやっぱり、何にも屈しない強い存在は、
こんなご時世だからこそ、魂を揺さぶるものがあります。
現在では、マンガの世界でよく見かけますよ。

ぼく自身は、真ん中のがらがらどんですかねー。
Posted by hirobon at 2005年05月02日 20:57
3びき目のがらがらどんは、きっと、わりと身近にたくさんいると思うんですよ(笑)。
ここで登場する橋番のトロルは、非常に恐ろしい存在として登場するのですが、実は、北欧全体でみれば、トロル族の中では、多分、小物なのです。
というのは、彼は橋に住んでいるだけで、自分の洞穴や、いわんや岩山をもっているとは描かれていない。
だから、トロルとしては、弱い存在なのですな。
それが、がらがらどんの偉大さを卑小化するというのではなく、たとえば、
先生の横暴に立ち向かうとか、
意地悪な上級生や同級生(社会人なら会社の人)に対抗するとか。
そんな感じではないかなあ、と思います。
また、社会の悪をくつがえすような正義と力は、魅力的ではありますが、むしろ、そういう勇者が一人いるより、身近な「悪」に立ち向かう事のできる人がたくさんいる方が、良いなあという気もするのです。
Posted by とら at 2005年05月02日 22:39
>hirobonさん
こんばんは。コメント&TBサンキューです。
この絵本の第三のがらがらどんは、周りの期待に応えて、
というより淡々と自分のやるべきことをやっているような
ハードボイルドな感じが格好いいと思います。(笑)

>とらさん
こんばんは。オトナノトモへようこそ!
三匹目のがらがらどん、とらさんの身近にはたくさん
生息しているんでしょうか?羨ましい!
私はこれまでの人生においては、皆無ではないものの
めったにお目にかかれない存在です。
とらさんの、社会悪に対する勇者よりも身近な正義の味方が
たくさんいてほしい、という考え方は素敵ですね。

Posted by えほんうるふ at 2005年05月02日 23:11
こんにちわ!
がらがらどんのこの絵本、小さい頃持ってたけど、トロルが迫力ありすぎで怖かったことだけしか覚えてませんでした〜(><)

小さい頃に読んだり見たりしたものって、
子どもの時よりも大人になってからのほうが
そのよさや意味がわかったりすることがありますよね。

わたしはもう、絵が怖いだけで
「モチモチの木」とかダメでした。
あと、ジブリの「紅の豚」「おもひでぽろぽろ」も小学生の私にはつまらなかったな。
今はわかりますけど。

えほんうるふさんのこのHPでは
そういう「絵本の大人の読みかた」が学べそうですね!!

ちなみに私にとっての3匹目のがらがらどんは…
と考えた時、夫にそうあってほしい、と思いましたし、時には私もそうならなくちゃと思いました。家族という、小さな幸せを守るために。
Posted by いちむ。 at 2005年05月03日 16:28
理想のリーダー、ううう〜む、難しいですね。
厳しくても、理にかなっている場合は、話を聞いていてスカっと!清々しい気持ちになれたりします。しかし、そうでない場合も多々…。

昔、子ども関係で出来た知り合いの話を聞いていて、部下の健康を気遣う気持ちを感じられず、なんだかとても残念に思ったことを思い出しました。
それまでに置かれた環境が、モノの考え方にとても影響すること、大人になって痛感しました。広く大きい考えが出来るようになりたいと思いますが、とても難しいです…。

かめっこ(娘)の母としては、「みんながリーダーでなくてよい。守られる立場の者がいるのも可。」と思えるストーリーは、なんとなく嬉しかったりします。
Posted by かめちゃん at 2005年05月03日 22:25
>いちむ。さん

わあ、来てくれたんですね。オトナノトモへようこそ!

>>小さい頃に読んだり見たりしたものって、
>>子どもの時よりも大人になってからのほうが
>>そのよさや意味がわかったりすることがありますよね。

確かに大人になってから改めて読んで「おお、そうだったのか!」
と感じることはありますね。
でも、子どもの頃に感じた読後感というのもまた貴重なものだと
思いませんか? それこそ、大人になっちゃったら見えないものが
子どもにはきっと見えているし、感じ取っているでしょうから。
子どもに絵本を読み聞かせていると、大人の予想に反する反応が
返ってくる事がよくあって、「うおぉ、そうきたかーっ!」と
思わされます。面白いですよ。

ダンナさんが3匹目のがらがらどん、っていうのは、家族として
ひとつの理想ですよね。ほとんどの家庭では場合によって父と母が
3匹目の役を分担しあっているんでしょうね。
我が家もそんな感じかな・・。


>かめちゃん

>>それまでに置かれた環境が、モノの考え方にとても影響する

ふむふむ。確かにそうですね。自分がそうなりたいように、我が子にも
視野の広い大らかな心を持って欲しければ、そういう環境で育児する
のが一番なんだろうなぁ。思わずぢっと手を見る私(^^;)

みんながリーダー、っていう社会はありえないよね。
守られる存在がいて当たり前なんだから、庇護されて卑屈になることなく、
守る方も、変に気負わず当たり前に手を貸せる社会がいいな、と思う。

なんか最近、本来の絵本の話からどんどんずんずん話が逸れていく
妙なブログになりつつある・・(^^;)?
Posted by えほんうるふ at 2005年05月05日 08:37
こんにちは!
やっと読めました〜。
でも難しすぎて、よくわからん・・。と言うのが正直な感想。
「リーダー」ってみんなをまとめるのがうまい人かなぁ。と言ってもきちんと人を見て、的確に指示できて、やっぱり他者から自分をまもってくれる人。
そう言う人だったらいいなぁとは思います。
でも私もこんなリーダー、滅多にお目にかかったことはない。
私が言うリーダーとは「婦長」のことです。(看護師なんで)
Posted by 空 at 2005年05月09日 20:34
空さん、こんばんは。
難しくてよく分からん!という素晴らしく素直なコメントに感謝です。
コドモ達の鋭いツッコミのように、そういう率直な一言が私の妄想の暴走に
ブレーキをかけてくれるのです(^^;)
空さんの職場で求められるリーダー像は、人の命を預かる現場だけに、
なかなか難易度が高いですね。でも、そうあってほしいですね。
上司に恵まれると仕事のモチベーションが上がりますよね〜。

Posted by えほんうるふ at 2005年05月10日 00:43
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