![]() | 百年の家 (講談社の翻訳絵本) J.パトリック・ルイス 作 ロベルト・インノチェンティ 絵 長田 弘 訳 講談社 2010-03-11 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
100年住める家。
確か、どこかのハウスメーカーがそんなキャッチコピーを使っていたと思い、
検索してみたらコピーどころか社名にしている会社まであった。
それほど、長く住み続けられる家というのは魅力的なコンセプトなのだろうか。
古来、地域の気候や風土から木造住宅の文化が発展してきた日本では、
建物は須く戦火や災害により容易に焼失してしまうものとされてきた。
だからこそ、一部の神社仏閣のように、奇跡的に長期間原型が維持された建築物は
それ自体が富と権力の象徴として、無意識に私たちの心を惹きつけるのかもしれない。
まして、「一国一城の主」という言葉に象徴されるように、
戸建ての持ち家にこだわる人々にとっては、代々継がれる立派な家を建てることが
○○家の歴史に名を残す一大事業として捉えられてもおかしくない。
一方、この「百年の家」の舞台はどうやら、ヨーロッパである。
建築資材として昔から石が多用されてきた彼の地では、たとえ庶民の住宅であっても、
その家(の土台)はそう簡単には消失しない。
ならば永代に渡って一族が住み続けたかというと、そうもいかなかった。
絶え間ない宗教闘争や侵略戦争によって、住人は頻繁に移住を余儀なくされ、
人より堅牢な建物だけが変わらぬ場所で歴史を刻み続けることになったのだ。
この作品の主人公である「家」も、100年どころか、350年近い歴史をもつ建物らしい。
それほどの長い年月ともなれば、その定点観測に登場する人間の数も膨大になる。
何世代にも渡り現れては去る人間達の営みを、「家」はひたすら静かに見守っている。
淡々とした語りながら、その多事多難ぶりはまるで大河ドラマを観ているようで圧巻だ。
地震大国の日本にあっては、どのみち長らく保持できるものでもないのに、
個人資産として基本的に一家族が住むとされる分譲住宅と比べ、
期限毎に不特定多数の人間が住む家、つまり賃貸住宅は
あくまでも「仮の宿」として軽んじられる風潮がある。
住む側も、持ち家となればインテリアに凝ったり設備のメンテナンスも怠らないのに、
賃貸では安普請やリフォームの制限に甘んじるのが当たり前のように思っていたり…。
ところが、日本ならビンテージ扱いの古い住宅がごろごろしているヨーロッパでは、
家は天下の回り者という感じで、箱だけでなく家具までそっくりそのまま、
いわゆる居抜き状態で提供されることも多いと聞く。
だからこそ、縁あって新たにその家に住むことになった人間は、必要に応じて
遠慮無く気が済むまで手を入れるのが当たり前とか。
この両者の文化の違いを、
「人の一生とモノ(家)の一生のどちらを大切にしているか」
「過去・現在・未来のどの時点を軸に生きているか」
といった観点で考えると非常に興味深い。
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