2005年04月18日

少年よワイルドな妄想を抱け

Where the Wild Things Are
Maurice Sendak
Harpercollins Childrens Books


by G-Tools

かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック じんぐう てるお
冨山房 1975-01


by G-Tools

 
我が家では数年前からヒトの形をした一匹のケモノを育てている。
これが機嫌のいいときはすこぶるカワイイ奴で扱いも楽なのだが
時としてまったくコントロールの効かない危険な猛獣に成り下がる。
もちろん人間の言葉など通じないし、吠えるわ壊すわ暴れるわで
手が付けられない。慣れないウチはついつられてこっちまで興奮してしまい
気が付くと平和な家庭が野生の王国になってしまうのが常であった。
が、最近はさすがにこのパターンに疲れて私も学習した。ヤツの中の野生が
目覚めた気配を感じたら、潔くあきらめて周辺の安全管理だけに目を配り、
あとはタタリ神を前にしたヒイ様のごとく、荒ぶる魂よ静まりたまえ・・
とひたすら嵐が過ぎ去るのを祈るのである。

センダックの「かいじゅうたちのいるところ」の主人公マックスは、
我が家の3歳児の猛獣モード時のキャラクターそのものである。
冒頭のいたずら中の悪魔のような表情。思いつく限りの悪行を尽くしても、
まだ足りないといった風情で、しまいには母親の文句に逆ギレして晩飯抜きの
刑を食らうのだ。でも逞しいマックス少年は泣き寝入りなんかしない。
それならいっそのこと、うるさい母親なんかいないところでもっともっと
暴れてやれ・・と、いつもの楽しい妄想ワールドにトリップするのである。
そこでは何でもマックスの思い通り。恐ろしげな風貌の大きな怪物達もみな、
支配者マックスの意のままに動く。散々暴れて遊んで大騒ぎした後は、
理不尽にもいきなり晩飯抜きの刑を命じて恨みをはらすことも忘れない。
ようやく満足したところでふと我に返るマックス。支配者は楽しいが、
愛されない孤独には耐えられない。潔く全てを捨てて帰路に就いた彼を
待っていたのは、いつもの部屋と、いつもの母のあたたかい手料理。

さてこの絵本で一番スゴイのは誰か。そりゃもちろんマックスでも怪物でも
なく、姿無きマックスの母親だと私は思う。
荒ぶる魂の持ち主マックスの気持ちに沿うコスチュームまで用意して
好きなようにさせる度量の深さだけでも尊敬するが、手が付けられなくなった
腕白坊主が流れよく妄想ワールドに飛べるように気持ちを煽って一人にさせ、
トリップ中に思い切り発散させて、頃合いを見計らって手料理の香りで
覚醒させるなんざ、並の母親に出来るワザではない。
「ああ、いい汗かいた」とばかりにすっかり満足して帰ってきたマックスの
表情を見よ。ぺろりと夕飯の一皿を平らげて一晩ぐっすり眠ったら、何事も
なかったように清々しい笑顔で「おはよう、ママ!」なんて言いそうだ。
素晴らしい。私も是非ともそのワザを会得したい。
 

posted by えほんうるふ at 23:59 | Comment(18) | TrackBack(5) | 目からウロコが落ちる絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そうですね!
マックスが一番の怪獣デス。(^^)
「怪物はどこにいる?(ここにいる!)」
と表題を訳してもいいくらいなのだ。
江国香織さんがいつか著書の中で、「わたしが最初に見たこの絵本は、タイトルがちがっていた」と何かに書いていたことがあった。
なんだったかは忘れてしまったけれど・・。
イメージを限定して、こう読まねばならないということはない。
むしろいろんなふうに「世界を拡張」させて読者は楽しめたほうがいいわけだ。
えほんうるふさんの言うように、ほんとうはお母さんがスゴイ!・・なるほどであ〜る。
「よいこよいこ的」な日本の絵本に比べると、大人な絵本と言えるはずだ。
最近、書店で「星の王子さま」の「オリジナル版」という装丁の本を見て、ガクゼンとしてしまった。
まさに「大人向けの装丁」ではないか!
小中学生向けの装丁ではない。
この絵本にしてもそうです。
はたしてセンダック?!
作者は、「子ども」という読者はもちろんなのだが、かなり「大人の読者」を意識していたのではないだろうか。
ゆめゆめ、「絵本」という言葉にだまされてはいけないのだ。
えほんうるふさんの読み方は、そういう観点がどこかにあるように思えてくる。
絵本は、はなから子どものために描かれているもの、などといった考え方は、誤りなのだ。
そのことはもっと言われてもいいことのように思う。
このえほんうるふさんの「読み」のコメントは、ワタシにそういうことをさらっと教えてくれているようだ。
子どもの読みと大人の読みでは、当然ながら同じ感想などというほうがそもそも陳腐なわけだからね。(^^*
(や)


Posted by 山猫編集長 at 2005年04月19日 08:47
私信デス。
えほんうるふさんへ
このコメントにワタシのメールアドレスを入れておきます。
「Mixi」の件で、ちょっとご相談があります。
よろしかったらメールをいただけませんか?
(や)
Posted by 山猫編集長 at 2005年04月19日 09:04
いつもえほんうるふさんの素敵な紹介を楽しく拝読させていただいています。確かに、マックスの母親の存在って凄いと感じます。送り出し、出迎える。「いい汗かいた」の絵を改めて見ながら、姿の見えない母親のこと、想像してしまいました。
マックスの空想の世界と現実の世界がきっちり分けられているのではなく、続いている雰囲気が個人的にはとても好きです。(コメントが下手ですみません……)

Posted by kmy at 2005年04月19日 11:02
こんにちは〜。
うちの3歳児も同じかも(笑)
機嫌が悪いときは手当たり次第物を投げたりする。
壊れた物は数知れず・・。

この母親ね、うん、すごいですね。
そっと夕飯を置いているところはさすがだなとは思いました。
でも最初の部分はいまいちわからなかった。
この記事を読んで「あ〜、こんな取り方もあるのか・・」と感心しましたよ。
小さい子供のいる母親には永遠のテーマ(と言えばいいんだろうか?言葉が見るからない!)ですね。
(多分、いやきっと私にはできないな・笑)

Posted by at 2005年04月19日 14:32
みなさんこんばんは。コメント&TB感謝です♪
まとめレスにて失礼させて頂きます。

>山猫編集長殿
そうなのです。私にとって絵本ははなから子どものためのものではなく
私のためのモノ(!)なのです。わはは。で、面白かったら、
我が子にも見せてやろうか、読んでやろうかと自然に思います。
子どもがこの絵本を読んで「いやー、マックスの母ちゃんは侮れないな」
なんて思うわけもなく、もっと平易に楽しむことでしょう。
あるいは私の想像をはるかに超える解釈をしていることもある。
親子で違う受け取り方を楽しめるのも絵本ならではで、なんと
懐の深いメディアなのだろうと感心するのであります。
あ、後ほどメールさせていただきますね。

>kmyさん
現実と空想の世界の境目を感じさせないスムーズなつながりこそが
マックスが並はずれた妄想能力の持ち主である証拠だと思います。
インナーワールドに自由に出入りできてしまうなんてすごいですよね。


>空さん
お、魔の反抗期3歳児と闘う同志でいらっしゃいましたか。
うちだけかも知れませんけど、本当に時々野生に還ってしまうんです。
自分でもワケ分からないまま本能的にとにかく反抗し、暴れたい。
「荒ぶる魂」と私は表現しましたけれど、それは誇張ではなくて
インドの山奥でオオカミに育てられたわけでもないのに、何かこう、
動物っぽいというかプリミティブな衝動に見えてとても面白いのです。
あのパワーはすごいです。そのままにしておくのはもったいない(笑)
Posted by えほんうるふ at 2005年04月19日 22:35
えほんうるふさん、こんにちわ!
ブログ訪問、ありがとうございました。
ここのオトナノトモ、面白いですね〜。
「かいじゅうたちのいるところ」も、
お母さんならではの解説に、思わずにんまり。
ぼくも絵本は、大人の楽しみ方があるというクチナので、
えほんうるふさんの意見に、共感するところもいっぱいです。
ほんとはTBしようかと思ったのですが、
初心者ゆえまだ勝手が判らず、今度します。。
リンクなら貼れるので、いいですか?
Posted by hirobon at 2005年04月20日 20:41
hirobonさん、オトナノトモへようこそ!
ここまでしつこく深読みすることもないだろうと自分でも
思うのですがついやってしまうんですよねー。
超遅筆レビュワーにて更新は頻繁ではありませんが、
えほんうるふ流思い込み書評を楽しんで頂ければ幸いです。
どうぞまた遊びにいらしてください。
あ、リンクはご自由にどうぞ〜。
Posted by えほんうるふ at 2005年04月21日 01:06
はい、リンクさせていただきました。
レビュー形式だから、好きな時に好きな記事が読めますし。。
これからも、よろしくお願いします。
Posted by hirobon at 2005年04月21日 21:52
おいおいケモノってぇ、そう呼ぶにはかわい過ぎるぞ!>うるふじゅにあ
しかし読みが深い。すごい。うるふちゃんの新たな?一面を見たような?そういえば、某所にて絵本紹介の集まりで顔を合わせたコトがあったな〜と思い出しまいた。きっと、そのとき以前から、読み込む視点が違うのね。すごい。

うちのかめっこはコレが大好きで、車に乗ってはチャイルドシートで全文暗唱してました。…今はうろ覚えらしいケド。その頃、惹かれるものがあったのかな。あの子なりに。リクエストされて、よく膝の上に乗せて読みました。繰り返し読んでも、私が「読まされている」という気にならなかった本でもあります。

冒険したい!と思うのは、還れる場所があるという気持ちから発展するものかもしれませんね。…と、ここを読みながら、ふと思いました。
Posted by かめちゃん at 2005年04月23日 00:13
わーい、かめちゃんだ!
かめっこちゃんがこの絵本を好きだというのは至極納得できます。どうもピュアなココロの持ち主に強く訴えかけるものがあるようです。普段コドモに絵本の感想は聞かない私ですが、かめっこちゃんがこの世界をどう見ているのかはすごく興味があります。
ところで「還れる場所があるからこその冒険」その通りです。この絵本の展開は「往きて還りし物語」の王道をいくものだと私は思っています。
Posted by えほんうるふ at 2005年04月23日 08:12
こんにちは。

怪獣つながりで、『めっきらもっきらどおんどん』の記事をTBさせて頂きます。

こちらの絵本も、最後のキーワードは「おかあさん」なんですよ。
いろいろ読ませてもらっています。どんどん遊びに来ますね!!
Posted by ろみぃ at 2005年05月15日 17:03
ろみぃさん、TBありがとうございます。
確かにめっきらもっきらも、日本版「かいじゅうたちのいるところ」
みたいなストーリーですね!
往きて還りし物語になっているし、おばけとコドモが羽目を外して遊びまくる
ところも、還っていくコドモをおばけたちが必死で引き留めようとするのも。
ちなみに私は、めっきらもっきらの歌の響きが好きで、いつか
「声に出して読みたい絵本」の一冊としてここで紹介しようかと思っています。
 
Posted by えほんうるふ at 2005年05月16日 00:29
こんにちは、ご無沙汰しております。

昨日、この本の英語版を図書館で借りてきて子供に読み聞かせしました。「下手な英語!」と妻にはののしられましたが、息子は喜んで聞いていました。

あらためてえほんうるふさんのページを今読むと納得いたしました。ひどいこと言われ、今、妄想の世界にいるのは私かもしれません。
Posted by りんご at 2005年08月29日 10:27
>りんごさん

旅行に出ていたもので、お返事遅くなり失礼致しました。

ののしるだなんて、まさか。言語なんてコミュニケーションの為の道具に過ぎません。道具は使えればそれでいいのに、使い方の上手い下手にこだわりすぎるのは日本人の悪い癖ですね。息子さんにはちゃんと伝わったようで良かった良かった。
Posted by えほんうるふ at 2005年09月01日 02:14
こんにちはアキンガーです。私の下手なブログに来ていただいてありがとうございます。
母親が主人公か〜、な〜るほど〜。たしかにそうですね。勉強になりましたー!そう思って読み返してみると、またちょっと違う味わいがありますね。そんでもって読み返して気づいたんですけど、放り込まれた寝室と帰ってきた寝室。窓から見える月が変わってますが(三日月から満月になってる…)わざとかしら…
Posted by アキンガー at 2005年09月28日 09:59
>アキンガーさん

そりゃもちろんわざとでしょう、センダックだもの。本当に深読み研究のしがいのある作家です。お月様については、ここにコメント&トラックバックの来ているやまねこ新聞社の山猫編集長の記事でかなり突っ込んで言及されていますので、よかったら読んでみて下さい。面白いですよ。
Posted by えほんうるふ at 2005年09月28日 23:21
なつかしいぃ〜です!
覚えがあるんですよ、幼稚園のとき友達のうちで読んであんまり面白かったから、借りる事になったんですが(なんか繰り返し読んでいちいち笑ってたのが先方の母御に喜んでいただけて・・)持ち主の『僕』がやだあっ!て。
貸すのよ〜、借りるのよ〜と双方のママが諭しても聞かず、結局取り押さえているうちに持ち出した・・・という。
何処でそんなに受けたか思い出せないのですが、そこまでして借りるかい、そんなに貸したくないのかい、と此方のほうを思い出しました(笑)。
なんでも私は、大人が釣り込まれるほど馬鹿笑いする子だったそうですが、本で記憶にあるのは『はれときどきぶた』とこれだけです。
Posted by きくちか at 2006年04月11日 13:03
>きくちかさん

幼いきくちかさんもそのお友達も絵本の味の分かるお子さんだったのですね。この絵本を読んで爆笑する子供にはまだ会ったことがありませんが、伸び伸びとしていて素敵な感性だと思います。コドモは良い意味で怖いモノ知らずでいてほしい、というのが私の理想です。
Posted by えほんうるふ at 2006年04月14日 05:54
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