2006年09月30日

全ての老女は妖怪である

つえつきばあさんつえつきばあさん
スズキ コージ

ビリケン出版 2000-06
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この季節、街を歩くとオレンジ色のカボチャのモチーフをそこらじゅうで見かける。商業化されたお祭りが大好きな我らが日本人は万聖節の意味も知らずにハロウィンパーティのバカ騒ぎに興じるのである。ましてハロウィンと言えば、日頃品行方正で通っているアナタも大手を振ってコスプレを楽しめる年に一度のチャンスである。同じアホなら踊らにゃソンソン、さあアナタもご一緒に…
 
ところでハロウィンというと思い出す絵本がある。別にハロウィンとは無関係の内容なのにナゼか私の中でリンクしているその本は、スズキコージ氏の「つえつきばあさん」である。
タイトル通りこの絵本の主人公は杖をついた老婆なのだが、そのキャラがとにかくステキに怪しくてイカすのだ。赤頭巾をかぶり杖をつきながら町を歩くその姿は中世の魔女を思わせるが、妙にポップで全然怖くはない。しかし、何食わぬ顔で「ギイと入り」「ギイと出て」くるとあら不思議、婆さんが増殖している。叩けば増えるビスケットならぬ、入れば増えるつえつきばあさん。ひたすら「ギイと入り」「ギイと出て」くる繰り返しの妙に乗せられているうちに婆さんは20人にもなり、しまいには村の広場で輪になってつえつきおどりを踊り出す。
この怪しすぎる婆さんがいったい何者なのか、作中に一切の説明はない。そもそも「3年に一度のつえつきばあさんまつり」っていったい…(汗)。祀られているはずの存在が自ら村人の前に大挙して現れて踊り狂うとは、まさに奇祭中の奇祭である。よく見ると、恐らく3年に一度現れるのであろうつえつきばあさんの神(?)が上空で満足そうにことの成り行きを見守っている。祭りが終われば婆さんたちは連なって元来た道を戻り、やっぱり「ギイと入り」「ギイと出て」気が付けば一人になっている。すっかり妖気が抜けた婆ちゃんは、祭りの余韻を楽しむかのように一人そっとつえつきおどりを踊ってみたりして、何だかカワイイ。羊にくるまって満足げに眠りにつくその姿は何とも幸せそうで、充実の老後を思わせる(笑)。
コージズキンならではのとんでもなくシュールな展開に味のあるエンディング、ファンにはたまらない一冊だ。

ちなみに何かの本での読んだスズキコージ氏へのインタビューによると、氏が好んで旅をする東欧の片田舎ではまさにこんな風貌の老女が当たり前に村道を行き来しているそうで、もちろんこの作品もそんな旅の道すがら生まれたとか…。さもありなん、ドラキュラの故郷トランシルバニアあたりでは今も数年に一度の知る人ぞ知る奇祭が催されていそうだ。

そんなことを考えていたら、幼い頃テレビでよくやっていた「あなたの知らない世界(うろ覚え)」を思い出した。この番組ではいわゆる都市伝説や読者からの投稿エピソードなどを元に再現ドラマを作って見せていたが、ある日出てきたのが「山道の老婆」であった。
「車で山道を走行中、老婆とすれ違った。しばらく走り続けると、また同じ老婆とすれ違う。気のせいだろうと通り過ぎるのだが、3度目に遭ったときにはさすがに不気味になり、確かめようと恐る恐る近づいてよく見ると、老婆は初めて顔をあげ、ニヤリと笑った。車はその直後崖から転落してしまった…」とかなんとか。
今聞けば怖いと言うよりむしろ笑い話だが、幼心に「ババァ恐るべし」という先入観を植え付けるには十分な効果があり、そのテレビを見てからしばらくは車中から外を眺めて老婆が目に入ると慌てて目を背けたものだ。
ちなみにこの手の「高速移動する老婆」の話は全国各地に流布していて、今だに「マッハばばあ」だの「ターボばあちゃん」などの愛称で呼ばれ都市伝説界の人気者である。なんのことはない、それらのドライバーが迷い込んだ山中ではたまたま3年に一度のつえつきばあさんまつりが開催中だったのだろう(笑)。

それにしても、自分もいずれなるであろう「老女」という存在は、なぜか男性の「老人」と比べて怪しいイメージがつきものである。人は老いの末には無邪気でワガママな赤ん坊の境地に戻っていくらしいが、女性の場合はそう簡単に一生分の紆余曲折を無にしてたまるかという女の意地があるのかも知れない。

また、世の中には文字通り年齢不詳の女と呼ばれる人々がいて、その堂々とした妖しい佇まいこそ全ての女性が心の隅で憧れている理想の老いの姿ではないだろうか。
実はそんな女性が私の住むマンションにも一人いらっしゃる。ご夫婦二人で暮らしていて、敷地内で会えばとてもにこやかに挨拶をしてくれる。が、過去には管理組合で敵対したオバサンと激しくやり合って相手を引っ越しに追い込んだことがあるとかで、敵に回すとかなり怖い人という噂がある。そんな彼女はいつも小綺麗にしていて所帯じみたところが無く、お肌なんか真っ白。イメージとしては桃井かおり氏のような感じで、間違いなく私より年上なのだが何歳なのか見当が付かなかった。ところが先日たまたまエレベータで一緒になった時のこと。立ち話の流れで先方から年齢を聞かれたので、すかさず「ちなみに○○さんは…?」と切り返してみると、なんと既に還暦間近でいらっしゃった。思わず絶句している私に彼女は「あら私、バケモノって呼ばれているのよ〜。」とカラカラと鷹揚に笑って見せた。

結論。老いた女を敵に回すべからず。
posted by えほんうるふ at 21:38 | Comment(10) | TrackBack(1) | 怪しい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちはー
確かに絵本や映画に出てくる老婆には不思議な力を感じます。
映画でいえば、マトリックスの”預言者”、ハウルの動く城の”荒地の魔女”、ハリーポッターの”マクゴナガル先生”みんな不思議な力の象徴であり、包容力はあるけど、こだわってる事があって、その事に対しては非常に厳格なんです。男の魔法使いは許容範囲が広い(優柔不断?)なところがあるのですが、魔女にはそれがありません。
日本の昔話でも、そんなミステリアスな人物には老婆が採用されますが、平均寿命の短かった昔は、長生きそのものが驚くべき生命力の結晶であり、その生命力はとても不可思議に写ったに違いありません。ですからその生命力の源は、悪魔や鬼との結託によって得たものでは? とか、若者の生命力を奪う力が備わってるのではないか? とか 想像は膨らんだでしょう。もしそうだとしたら色んな物語が生まれてくるのは必至ですよね。
この絵本は読んでいないのですが、現れた神様はその生命力をたたえて微笑んでたのでしょうか…
あはは、ちょっとつまらない事を長々と話してしまいましたが、現代のような長寿で豊かな日本には本当の意味での老婆の数は、少ないかも知れませんねー
Posted by J.T. at 2006年09月30日 23:17
スズキコージさん、いいですよね!
ずっと昔、福音書館の雑誌(母の友?ってありますよね)の付録になってた絵本が、まだ記憶が残ってます。切り取って、アコーディオンみたいに折りたたんで本にするものなので、子供が読んだら瞬殺(笑)だったはずですが「だすとを すいとる はまこさん」の一説と掃除機姿の女のひとの残像が!

挿絵を描いている、というだけで気に入ってしまったのは「ロシアの妖怪」です。
ロシア人の皆さんの昔話や怪談を集めたものですが、興味もないのに読むきっかけとなり、この手の民話物を幾つも読む様になりました。

確かに、各地のおばあさんは元気なようです(笑)
Posted by きくちか at 2006年10月01日 21:09
>J.T.さん

こんにちは♪
そうそう、宮崎駿作品には必ずと言っていいほど存在感のあるスゴイお婆ちゃんが登場しますよね。私のお気に入りはラピュタに出てくる海賊のおばあちゃんと、千と千尋に出てくる銭婆。好きなように生きててもパワフルなだけじゃなく包容力も母性的な優しさもあって、もう本当に憧れの存在。こういう貫禄のある婆さんになれたらもはや人生怖いモノ無し♪

>>長生きそのものが驚くべき生命力の結晶であり、

なるほど〜!80歳が今で言う100歳越えみたいな感覚だとすると、そりゃあタダモノじゃないってことになりますよねぇ…。生き仏として祀られてもおかしくない(笑)。そこいくと今は本当に若いお婆ちゃんが多くてなんか拍子抜けしちゃいます。
Posted by えほんうるふ at 2006年10月02日 00:27
>きくちかさん

母の友、取ってました。あれって何げに絵本好きにはお宝満載雑誌ですよね。ましてスズキコージさんの工作絵本だなんて、最高ですね。まあ、確かに子供の手に渡った次点で瞬殺確実でしょうが(^^;) 「だすとを すいとる…」を手がかりに、何とかその作品を一目みたいものです。
(どなたか詳しい情報お持ちの方はぜひご一報を!)
Posted by えほんうるふ at 2006年10月02日 00:28
奇祭中の奇祭、まさにその通り。あのつえつきばあさんたちは、ひとりなのか大勢なのかなんだかわけがわからないところがまた好きです。あの格好でぜひこの奇祭に参加してみたところです。
都市伝説を思わせるというところ、なんだかいいです。おばあさんって魔女のイメージがあるというか、年齢を重ねていくうちに年齢不詳になり魔女になり妖怪になり……というところがありますが、以前すんでいたところで仲良くしていたAさんを思い出してしまいました。当時20代半ばのわたしには年齢の予想が全然つかず(やはり女性に年齢は聞けない)、一回り上?くらいに思っていたのですが、「20歳は離れていて、下手するとkmyさんと親子くらい離れてはず」と人づてに聞いて驚いたことがあります。独身で子どももいないと年齢がわかりにくいような気がします。
きくちかさんご紹介の本、気になります〜。言葉だけでも想像させられて、あー見てみたい!
Posted by kmy at 2006年10月02日 14:10
>kmyさん

ようこそ「つえつきばあさんまつり@オトナノトモ」へ♪
おお、kmyさんの身近にも年齢不詳のレディがいらっしゃったのですね。何となく侮れない雰囲気ですよね、彼女たちは…。
かくいう私も若い頃は大抵5〜10歳も老けてみられ、立派なオバハンになった今は実年齢を言うと逆の意味で驚かれます。年齢不詳というより単に年相応になれない女ってとこでしょうか(^^;)
Posted by えほんうるふ at 2006年10月03日 00:09
増殖するオババ、なんか愉快だな。ぜひ読みたいです。
この表紙、たまらないものがある〜。
(YMOのLPジャケを連想、懐かしや〜。)

あなたの知らない世界…私もファンでした。
運転中に、妖怪オババにはお目見えしたくないわぁ。
Posted by かめちゃん at 2006年10月03日 23:01
うぅん・・・。
私もどうしても気になって、ちょこっと探してみたんですが、たどり着けませんでした。

他に追加できる情報としては、私が幼稚園児だった1987〜1989年の間に
刊行されたはず!という点でしょうか。

あの付録がぼろぼろになった直接の原因は
絵本の中に登場するアコーディオン弾きのおじいさんのフレーズ
「ぶんざっざー ぶんざっざー」に合わせて折りたたみ式の絵本を
延び縮みさせて遊んでしまった!と言う事が挙げられます・・・。

黒い絵で、雰囲気は「おしいれの冒険」の表紙に似ていた気が・・・
母によるとかなり不気味で、私を含め子供たちが爆笑して喜ぶのが解せなかった(笑)
そうです。
Posted by きくちか at 2006年10月04日 12:33
>かめちゃん

そうなの。ひたすらギイと入りギイと出てくるこの愉快さは理屈じゃないです!もうこのへんから「まつり」は始まってるんだと思う(^^;)

あなたの知らない世界、時々すごく怖くなかった? 詳細は忘れてしまったけど、明るくて人のいない地下鉄の構内で殺人鬼に追いかけられる…みたいな話が強烈に恐ろしくて、その晩うなされた覚えが(^^;)
Posted by えほんうるふ at 2006年10月05日 17:59
>きくちかさん

うーん、辿り着けずですか…「ぶんざっざー」といい、ますます気になりますね…。
いっそ福音館に問い合わせるのが早いかも知れませんね。

スズキコージ氏の絵は不気味なのがデフォルトというか、癒し系とかホノボノ系とは縁のない雰囲気ですがそこがファンにはたまらないのですよね。害はなさそうなんだけどドコカ人を不安にさせるような…ちょうど山羊の瞳孔みたいな不気味さです(笑)
Posted by えほんうるふ at 2006年10月05日 18:00
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