2011年12月19日

憧れのバイリンガル

サンタをたすけたくじらサンタをたすけたくじら
ロジャー デュボアザン なかにし ゆりこ

新世研 1999-11
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東京で生まれ育った私は、標準語しかしゃべれない。
いや、もしかすると厳密には私が日頃使っている日本語は「東京弁」なのだが、
それが標準語と呼ばれるものに非常に近いため、区別がつかないだけかもしれない。
そんな自分にとって、方言と言えばテレビでお笑い芸人が話す関西弁や
映画やドラマの登場人物が口にする広島弁や土佐弁の印象が強く、
身近に生の方言を聞く機会がほとんどなかったこともあって
それぞれの方言のイメージを逆手にとった「演出」のように感じていた。

初めて生の方言の威力にびっくりしたのは、社会人になって間もなくのこと、
新入社員の合同宿泊研修で地方出身の同期たちと数日間を共にした時だった。京都出身の同期の女の子が何気なく言った、「○○ちゃんは、〜しはるやろ?」
その言い回しの何とも言えない柔らかい響きに、私は感動した。
彼女がまさに和服が似合いそうな細面の美人だったこともあり、
私が男ならきっと一目惚れしたんじゃないかと思うほど、それは魅力的な響きだった。

京ことばはもちろんのこと、どこの地方のお国言葉もそれぞれに、
日本の風土の多彩さと文化の奥深さを思い知るような、豊潤な「含み」が漂う気がする。
それは標準語にはない、豊かな表現力を伴って聴く者の心に響く。

地方出身の同期達はそれぞれ、辿々しくも標準語で敬語を使おうと頑張っていたが、
いやでも残るお国言葉の名残のアクセントが、私にはとても好もしく思え、
同時にちょっぴり彼らが羨ましくも感じた。
なぜなら、地方出身者が話すちょっとクセのある標準語は微笑ましく思われるのに、
逆に東京の人間が無理して地方の方言をマネして口にするのは何とも白々しく響いて、
ネイティブの皆さんの失笑を買っている気がしてならないからだ。

そもそもベースの言語が全く異なる外国語ならば、どれだけ発音が怪しかろうと、
私はコミュニケーションの道具と割り切ってむしろ堂々と自分訛りで口にしてしまえる。
しかし、ただでさえ何かと言外に微妙なニュアンスを伴う我が母国語の場合は、
その大いなる特徴をさらに極めたとも言える各地の方言の魅力をぶち壊しにすることに
私はどうしても抵抗を感じてしまうのだ。
大袈裟に言えば、伝承芸能を中途半端な形で広めてしまうような申し訳なさを感じる、
と言ったら、自意識過剰だと笑われるだろうか。


さて、私のお気に入りの絵本の中にも、文章が方言で書かれた作品が少なからずあり、
その多くは多人数への読み聞かせに最適!とも思えるユーモラスな内容なのだが、
残念ながら上記の理由により私自身は家庭内での読み聞かせに留めてしまうことが多い。
今日はそんな方言絵本の名作の中から、この季節にぴったりな一冊をご紹介しようと思う。

今日の絵本「サンタをたすけたくじら」は、往年のR.デュボアザンの名作に、
出版社の新世研が主催した第6回絵本翻訳コンクールで優勝したなかにしゆりこさんが
思い切った関西弁での訳をつけた、かなり個性的な絵本である。
ちなみに原題は"The Christmas Whale"といい、洋書版の初版はなんと1945年発刊。
もはや古典と言ってもいいくらい古い作品なのだが、何しろ挿絵が素晴らしく、
今見てもその魅力は全く褪せないどころか、粋な画風に益々うっとりしてしまう名作だ。


私が特に好きなのは、サンタの大事な仕事仲間のトナカイたちが、大仕事を前に
次々と体調不良を訴えてついには揃って寝込んでしまうというくだり。
もう、見るからに辛そうに腰をさすっていたり、悪寒に耐えている姿が涙ぐましくも
おかしくて、一気にお話に引き込まれる。

その後のストーリーも奇想天外で、休養を余儀なくされたトナカイたちの代わりに
クジラがサンタのプレゼントの配送を手伝うことになるのだが、
ところどころ詰めが甘いというか突っ込みどころ満載なのがまた面白いのだ。


そして肝心な関西弁での訳文だが、これが意外にも不思議なほど内容にマッチしていて、
関西弁ならではのこなれた表現がこの絵本の魅力をますます引き立てている。


窮地に立たされたサンタを励まそうと温かいスープを持ってきた奥さんが一言、

「さめんうちに、はよたべて。クリスマスまで ぎょうさんじかんはあるし、
どうもないて。そのうち ええかんがえが うかぶやろし」


なんかもうこの一文を読んだだけで、世界一のセレブ妻とも言えるサンタの奥さんに
ググッと親近感が沸いてしまうのは、私だけではないはずだ。


そして、動物たちがそれぞれにサンタを気の毒に思って語り合う台詞がまた無邪気で良い。
関西では、こんなふうに子ども達も当たり前に関西弁でおしゃべりしているのだろうな、
可愛いなぁと、思わずその様子を想像してニコニコしてしまう。



残念ながらこの絵本は、原書はもとより、せっかくの名訳文がついた日本語版も、
出版社の倒産という残念ないきさつにより絶版となってしまっている。
一人でも多くの絵本ファンに知って欲しい名作(珍作?)なので、
是非ともどこかで復刊していただきたいと思い、
復刊.comにリクエストページを作ってみた。
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=54343
よかったら、これをお読みの皆様にも是非投票していただけると、とても嬉しい。
どうぞよろしくお願いします。

お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 01:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | 声に出して読みたい絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
関西弁はキツい口調っぽいけど温かみを帯びたイメージがあるな。
1年前にUSJに行ったら、そのフレンドリーさに驚き面白かったよ。
OL時代は大阪支店の仲良しさんが遊びに来て、自分のことを『ワシ』と言ったのに驚き!!

自分はどっぷり標準語だと思ってたら、都内に通うようになって
『青なじみ』がローカル語だと知りビックリした覚えがあります。(^_^;)

それにしても腰をさするトナカイって…腰痛持ちとしては、他人とは思えないわ〜。
面白そうな絵本だね♪
Posted by ☆かめちゃん☆ at 2011年12月20日 23:50
>かめちゃん

そうなの、私も気持ちが分かるだけにあの腰をさすってるトナカイにはやたらと親近感を感じちゃって(笑)
他にも額に手を当てて唸ってるのとかいて、妙に人間臭くてしかもオッサン臭くて、この絵本のトナカイは本当に面白いよ。

ところで「青なじみ」っていったい・・・?
うちの夫(長野市出身)もそうだけど、あまりイントネーションが強烈でない地方だと、本人達は標準語だと思いこんでる単語というのがよくあって、普通に話されてこっちがびっくり、ということが時々あります(笑)
Posted by えほんうるふ at 2011年12月27日 00:18
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