2011年11月15日

最強イタイケなもの攻撃

ビロードのうさぎビロードのうさぎ
マージェリィ・W. ビアンコ/原作
酒井 駒子/絵・抄訳

ブロンズ新社 2007-04

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今時の就活や婚活においては、履歴書の趣味・特技欄に「読書」と記入するのはNGらしい。
早い話が無難すぎて何の自己アピールにもならないということだ。
確かに、自分を売り込むための資料で、限られた文字数で最大限の自己アピールをするのに、
何もわざわざ自分を凡庸に見せる言葉を選ばんでも・・と私も思うが、
これが「趣味:絵本鑑賞」ならばどうだろう。
恐らく、履歴書の「趣味:読書」が普通に受け入れられていた時代には、
相手に「では、どんな本を読まれるのですか」と突っ込まれた時に、たとえそれが真実でも
「絵本です♪」と答えてはならない、というのはある種常識であったはずだ。

ところが、世の中が成熟して価値観が多様化したお陰なのか、気がつけばいい年した大人が
男女職種を問わず堂々と初対面の相手に「絵本大好き」を公言できるようになった。
なんと素晴らしい時代であろうか。バンザーイ。
要するに、絵本だろうが哲学書だろうがビジネス書だろうが、とにかく読書において
自分が熱く語れるジャンルがあることがアピールできればそれに越したことはないのだ。

つまり「趣味:読書」より、「趣味:絵本鑑賞」の方が確実に自己PR力は上だと私は思う。
そして、今や実際に純粋に自分の趣味として絵本鑑賞を嗜む大人が増えている気もするのだ。

これまで「絵本を買う」といえば、その目的の多くは「家や職場で子に読み聞かせるため」で、
購買層もほとんどは親や保育者・教育関係者ではなかっただろうか。
だからこそ、これまでの絵本書評においては「良い絵本」=「『子どもにとって』良い絵本」
であることが大前提で、作品評価もその視点で語られるものが多かったように思う。

でも今は、たとえ幼児の親であっても、純粋に自分のために絵本を買う人が少なくない気がする。
画家のファンだとか、独特の文体がたまらないとか、登場人物の生き様に惹かれるとか、
理由は人それぞれだろうが、共通して言えることは、それらの作品は
「良い」からではなく「好き」だから選ばれたという点だろう。

かく言う私も基本的に「借りるのは子どもに読む為、買うのは自分が愛でる為」である。
(子どもたちにも、散々繰り返し借りて読んで、それでもなお手元に置きたいというほど惚れ込んだ絵本があればプレゼントしている。要するにケチなのだ(笑))
そしてそんな私が子どもそっちのけで偏愛している作家の一人が、酒井駒子さんなのである。

何しろ、酒井さんの描く幼い子どもや小動物は、私の涙腺の最大の弱点である
「イタイケなもの攻撃」のパワーがハンパ無いのである!
なかでもこの「ビロードのうさぎ」は、絵といい文章といい、
その涙腺破壊力がストレートに響く作品で、個人的にヤバイ(笑)。

こんなふうに おわりがくるなんて

うさぎは おもってもいませんでした。



ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!
この一文を読む度に、思わず杏里の「オリビアを聴きながら」の一節を口ずさみつつ、
星明子ばりの滝涙を流しそうになってしまう
のは私だけだろうか(爆)
とにかく何度読んでも心地よい「やられた…!」感とともに、何かと潤いの乏しくなった
中年女子の心にじわっと湿り気を与えてくれるありがたい一冊でなのである。
(「イタイケなもの攻撃」並びに私の涙腺事情についてはこちらの過去ログをご参照されたし)

さらにこの絵本の心憎いところは、主人公のうさぎの表情である。
明らかに微笑んでいるシーンもあるが、基本的には無表情というか、あくまでも作り物らしく、
泣いているのか笑っているのか一見しただけでは見分けが付かない一定の表情を保っている。
ところが、お話を読み進むにつれ、このうさぎはまるでウォルドルフ人形のように、
読む者の心の動きに沿って時には涙を流し、時には喜びに溢れて微笑むのである!
こんな「作りもののうさぎ」の絵が描ける人を、私は酒井駒子さんの他に知らない。


ところでこの作品の文章は、ご存じの通り酒井さんご自身による抄訳であり、
石井桃子さんによる、より原作に忠実な訳がつけられた作品も過去に出版されている。
その石井さん版をよく知る方々の中には、あえて抄訳で出版されたこの絵本の内容に
疑問を抱く人もいるようだ。

確かに原作者に敬意を払うという意味では、できるだけ原作に忠実なものを良しとする考えももちろん理解できる。
しかし個人的には、どのような形であれ実際に私の心を動かしてくれたものが私にとっての真実であり、血の通った「ほんとうのうさぎ」になり得る物だと思っている。
それが石井さんの「ビロードうさぎ」か酒井さんの「ビロードのうさぎ」かというのは、
それこそ各人と絵本との出会いのご縁次第なので、良いか悪いか、正しいかそうでないか、
といった単純な視点で作品を語るのは難しいと思う。

ともあれ、研究者でも教育者でもない一介の絵本好きとしては、絵本が
「子どもにとっては必需品、大人にとっては嗜好品」という新しい価値観で見直され、
より幅広く豊かな表現が世の中に受け入れられつつあること、
また、作品評価においても多様性が認められつつある今の風潮は、
なかなかに面白く、オトナ読みが趣味の私の余生にとっても喜ばしいことだと思っている。

絵本を手に取る全ての人が、自分だけのお気に入りの一冊にいつか出会えますように。

お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 01:38 | Comment(2) | TrackBack(0) | 泣ける絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
酒井さんの絵って、何か心の奥底にある誰にも見せたくない場所を探られるような、見えない力を感じさせる気がして、開いてみたいけどちょっとコワイ…と思っていました。
先日ふらりと立ち寄った本やに『ビロードのうさぎ』が置いてあり、思わず立ち読み→感動しました。
図書館で石井桃子訳の『ビロードうさぎ』谷口由美子訳の『ビロードうさぎのなみだ』を読みました。
絵本という観点から見ると、酒井駒子さんの絵は秀逸です!絵本を買うことがほとんどない私ですが、この絵本は欲しいな〜サンタさんにお願いしようかな♪
Posted by non at 2011年11月23日 21:53
>nonさん

コメントお返事すっかり忘れててごめんなさい。
この絵本はまさに「『酒井さんの』ビロードのうさぎ」という一つの完成された作品だと思っています。
それぐらい、完成度が高くて、何も足せないし何も引けないという気がするのです。
サンタさんにお願いするなら、ずっと可愛がれそうなぬいぐるみかお人形と一緒にお願いするのもいいですね^^
メリークリスマス♪
Posted by えほんうるふ at 2011年12月19日 07:16
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