2011年03月31日

闇夜の電信柱

月夜のでんしんばしら (ミキハウスの宮沢賢治絵本)月夜のでんしんばしら (ミキハウスの宮沢賢治絵本)
宮沢 賢治 作/竹内 通雅 絵

三起商行 2009-10

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震災の影響で電力が不足し、首都圏で持ち回りの停電が実施されるようになった。
「計画停電」というその言葉にどこか国家的な圧力を感じるのは私だけだろうか。
実際のところ、想定外の事情があるとはいえ、一企業から突然通告され、有無を言わさず実施された
このとんでもないサービス低下に対し、長年の顧客であるはずの私たちにそれを拒否する道はない。
理不尽を承知で従うしかなく、それどころか、さらなるサービス低下を防ぐために、
顧客同士が協力を呼びかけあってこの企業の窮地を支えるという妙な事態になっている。

宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」が収録された童話集「注文の多い料理店」が出版されたのは大正13年。
奇しくも、関東大震災の翌年である。
鉄道の電化・東京駅の開業から約10年を経た当時の鉄道事情を想像するに、
市井の人々はその夢のような技術とパワーとに感嘆し、誰もが憧れを抱いたことだろう。
ましてその夢を牛耳る電力会社のお偉いさんともなれば、
国民的英雄として人々に崇められていたとしても不思議はない。

主人公恭一は、圧倒的な電気の力にひれ伏すばかりの国民の姿を象徴するかのように
無知で無力な小さき者として描かれている。
一方の電信柱達は、まさに軍隊のように力と威厳を誇って堂々とのし歩き、
呆然と立ち尽くす恭一の無力さを嘲笑うようなそぶりさえ見せる。

そして電信柱の軍隊は、勇ましく軍歌を歌いながら行軍を続けていく。

ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらの ぐんたいは
はやさ せかいに たぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらの ぐんたいは
きりつ せかいに ならびなし。



その歌詞に偽りなく、呆気にとられた恭一の目の前で、彼らはその規律の厳しさを垣間見せる。
足先が腐り歩調を乱した二本の柱が、仲間の柱にどなりつけられる。
今読むと、その言葉の持つ重みに、私は何かぞっとしてしまう。

「はやくあるけ、あるけ。きさまらのうち、どっちかが参っても
 一万五千人みんな責任があるんだぞ。あるけったら。」



そこへ謎の「電気総長」が、これまた凄まじい存在感をもって登場する。
彼はまさに、加速的に進んでいく生活の電化という新時代の幕開けに
当時の人々が憧れ半ばに感じていたであろう未知の力への畏怖を象徴する存在だ。

電気総長のじいさんは、とにかく偉そうにしている。
やたらと周囲を威圧し、幼い子どもである恭一にまで乱暴にその力を見せつけ、
相手の反応などお構いなしに長々と自慢話を繰り広げるあたり、
昔ながらの田舎のお役人そのもののキャラクターである。

実際、電気総長が威張りくさるのも無理もないくらい、
確かに電力が私たちの生活にもたらしたものは計り知れない。
今やその恩恵なくしては現代生活がいかに不便で不自由なものであるか、
いかに私たちが日常生活のあらゆる面で電力に依存しているか、
今回の震災の被害や計画停電の実施で誰もが改めて思い知らされたはずだ。

ただし、このじいさんはただ単に偉そうなだけのお飾り総長ではなかった。
常に睨みを利かせて部下の規律を守るのも、重責を全うしようと思えばこそ。
その証拠に、部下の不手際で責務が果たせないとなれば、迷いなくその身を呈して
瞬時に事態の回復に努める行動力を見せる。
これぞ人の上に立つ者に相応しい豪胆さというものではないだろうか。
企業存続の危機に何週間も姿を見せなかったどこかの社長や会長とはえらい違いである。

今こそ彼が必要とされているというのに、電気総長はどこへ行ってしまったのだろう。
もはや電気のない時代には戻れない今、彼が戻ってこないとしたら、
今度は電力の恩恵を受けてきた私たち自身が、一人ひとりの意識を改めて
この途方もないエネルギーの軍隊をなんとか存続させていくしかない。
その新しい時代は、もう始まっている。


お気に召しましたら・・
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【ハラハラする絵本の過去ログ】
posted by えほんうるふ at 23:33 | Comment(2) | TrackBack(0) | ハラハラする絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初コメントです。
メガバンクに公的資金つって税金使われたりなんてこともあったな、とそんなことを思い出すブログでした。
危ないと分かっていたのに選択の余地もなくて、それを選ぶ事しか出来なかったという被害者意識を変えないと前に進んで行かないんですよね。
Posted by コトブック at 2011年04月11日 09:18
>コトブックさん

初コメありがとうございます!
そして私が言いたかったことをスッキリサッパリまとめて下さって嬉しいです^^

そうなんですよね、自分たちだって散々利用して恩恵を享受してきたのに、今更被害者面だけしてはいられない・・と、まして都民の私は思います。
まずは節電など日々の生活でできることから意識を変えていき、その先の、「これからの電力利用」をどうするかを、一人一人が当事者として真剣に考える必要があると思っています。

Posted by えほんうるふ at 2011年04月15日 09:58
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