2011年03月30日

ナンセンスに救われる

みみずのオッサン (絵本・こどものひろば)みみずのオッサン (絵本・こどものひろば)
長 新太

童心社 2003-09

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東北沖の大地震に伴って発生した福島第一原発の事故。
その復旧作業は困難を極め、ニュースで続報を見聞きする度に、事態の深刻さに言葉を失う。
間違いなく、これまでの私の人生において今が一番生命の危機に近い「有事」のはずなのだが、
よほど平和ボケしていたのか、テレビに映る現地の状況やニュース解説者の深刻な面持ちを見ても
今そこにある危機としての緊迫感が、今一つわが身に迫ってこない。

あるいは、この事態をシリアスに受け止めるとパニックを起こしかねないからと、
無意識に自分の思考力にブレーキをかける力が働いているのだろうか。
直接被害にあったわけでもない私が、いい年して思考停止で理性を保つとは情けないが、
こんな時こそ大人にもファンタジーの癒しが必要なのだと実感する日々でもある。


何を隠そう、福島の原発で最初の水蒸気爆発が報じられた時、最初に私の脳裏に浮かんだのはこの絵本だった。

どーんという音をたてて、次々と爆発する絵の具やペンキの工場。
建物からドロドロとあふれ出た画材で、町の全てが強烈な色彩に染められていく。
しまいには、人も道路もペンキと絵の具とクレヨンでベタベタに埋め尽くされ、動かなくなってしまう。
だが、心配はいらない。我らのヒーロー、みみずのオッサンの出番だ。
みみずのオッサンは、当たり前のように、その小さな身体で全てのドロドロを飲み込んでいく。
そのパワーたるや凄まじいが、なにしろミミズなので、カッコ良くは無い。むしろ可愛い。
だが、人知を超えるその活躍ぶりに惚れ惚れすること請け合いだ。

みみずのオッサンが飲み込んだ得体のしれないドロドロは、やがてきれいな泥となって出てくる。
どこまでも、どこまでも。
やがて世界は深い緑に覆われた太古の昔の姿に戻ってしまう。気がつけば恐竜さえ闊歩している。
何事もなかったように、泰然として平和な大地。どこまでも続く、緑の地平線。
そしてそこに、人間の姿は無い。

みみずのオッサンは、ハルマゲドンの後始末の為に,神が遣わした最後の掃除人だったのだろうか。
彼は地球を救ったが、人間を救いはしなかった。
まるで恐竜が絶滅したように、人間たちはカオスと共にきれいに消え失せてしまった。
なのに、そこに広がる圧倒的な安堵感はいったいなんなのだろう。
私たち人間は本能的に、いずれ自分たちが滅びることで地球に平和が戻ることを願っているのかも知れない。


内容があまりにもタイムリーで、何となく、今子供に読んではいけない絵本のような気がしていた。
でも改めてじっくりと読み返してみると、この絵本は、私が思っていた以上に素晴らしかった。
何より、緊張でコリまくった私の心を柔らかくほぐしてくれた。
大人ですらそうなのだから、子供にとってはまさに今こそ望まれる絵本ではないだろうか。

被災地の子どもたちは、突然強いられた過酷な運命に笑顔を失ってはいないだろうか。
今、現実を直視してことの深刻さに未来を憂うのは大人だけでいい。
世界がひっくり返った状態のまま、わけもわからず避難所生活を強いられている幼い子供たちに
今必要なことは、笑うことだ。
現実離れした悲劇を、現実離れしたファンタジーで笑い飛ばすことだ。

みみずのオッサンに福島の原発を丸ごと飲み込んでもらい、自然のままの美しい海岸が蘇ったら、
どんなにいいだろう。
悪夢が現実となった時こそ、子供たちの夢見る力に大人が元気をもらおう。


お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 10:39 | Comment(4) | TrackBack(0) | 元気が出る絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うるふさん

この絵本、以前読んだ時は、長さんらしい豪快で楽しい絵本。その根底に長さんの静謐な視線を感じてはいたのですが…

この時期にここまで読み解くうるふさんに脱帽です。尊敬のまなざし^^

今こそ読みたい本として、図書館スタッフたちにも紹介してもいいかしら?
Posted by kako at 2011年03月30日 17:08
>kakoさん

早速のコメントありがとうございます。
私も、大好きな絵本なのでいずれブログで取り上げようとは
思っていたものの、こんなことにならなければ
きっと全然違う紹介の仕方になったと思います。

長さんはやはり天才だったのだと、畏怖の感を新たにするとともに、
絵本というメディアの持つ可能性をまた思い知らされた気がします。
Posted by えほんうるふ at 2011年03月30日 20:42
こんにちは。はじめまして。

実は、ツイッター上で、絵本会をされているのを見たことがあって、フォローさせてもらっていました。そのえほんうるふさんのブログにたまたま遭遇して、大感激です!

長さんの絵本はよくわからなくてあえて避けていたんですが、この本はなんかスーッと入ってきて、何度も何度も読みました。

深い読みですね。でも、なるほどナットクです!長さんは予期されていたのかなー。

今後も寄らせてもらいます。
これから、楽しみです!
Posted by Kaz at 2011年06月08日 17:58
>Kazさん

ご来訪ありがとうございます。
お返事が遅くなってスミマセンでした。
ツイッターの大人絵本会もご覧頂いたことがあるのですね。
そういう方がブログにもコメント下さるのはとても嬉しいです^^

こちらのブログは更新が激しく遅いので(一応、月2回の更新を目標にしています…)、
忘れた頃に見に来る程度で丁度良いかと思います^^
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
Posted by えほんうるふ at 2011年06月15日 15:01
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