2011年01月31日

究極の対人マナー

おぎょうぎのよいペンギンくんおぎょうぎのよいペンギンくん
マーガレット・ワイズ ブラウン H.A. レイ

偕成社 2000-09

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食事の際の行儀の躾けというものが親の仕事の一つである限り、我が家の食卓で私が心安く食事を楽しめる日が果たしてくるのだろうか・・・と、毎晩悲観的になってしまうほど、我が息子の食事マナーはいただけない。

現在小学3年生の彼がもっと幼い頃からこれには悩み、育児書の類を読みあさった時期もあった。これについて育児書界の見解としては大きく二派に分かれ、一方は「諦めずに根気よく諭しましょう」という優しく正しいママ先生型。もう一方は「あまりうるさくいうより楽しくおいしく食べる方が大事」という肝っ玉母ちゃん型

これまでの育児において、基本的に理性より本能を優先させてきた私としては、当然ながら後者の教えに共感しこれを貫くつもりであったのだが、毎日の食卓で繰り広げられる野猿の宴を眺めること数年にしてついにギブアップ、このままではいかんと潔く方針転換し、今や食事の度に妖怪ガミガミババアと化している。
が、その甲斐無く息子は未だに猿から人間へ進化の途中で足踏みをしているらしい・・。


さて今日の絵本「おぎょうぎのよいペンギンくん」には、うちの息子以上に腕白坊主のペンギンの男の子が登場する。
彼は野猿というか野ペンギンの育ちらしくおよそマナーというものが身についていない。
でも根は素直で憎めない可愛い子どもで、そんな彼に呆れつつもかいがいしくマナーの手ほどきをするアライグマの奮闘ぶりが可笑しい。

ちなみにこの絵本、体裁としては子ども向けだが、その中で語られている「よいマナー」「わるいマナー」には大人の社交マナーにも通じる高度なものが含まれている。
そもそも、のっけからしてこうだ。

「マナーをおぼえるのって、たいへん?」と、ペンギンくんがききました。
「べつに。ほかの人のすることをよく見てるだけでいいんです。」
「でも、よいマナーを見てるのか、わるいマナーを見てるのか、どうしてわかるの?」
「しばらく見ていれば、まわりのようすで、わかってきます。」


つまり、アライグマが最初にペンギンくんに伝授したのは他でもない純日本人的交際術の基本、「空気を読め」だったのだ。
子どもにこんな高度なマナーを説く絵本が他にあっただろうか?まさに一家に一冊の「よい子のための社交術入門」である。
他にも、この絵本の中でペンギンくんが学ぶマナーには、こんなものがある。
・人が恥ずかしい目にあっているのを見たら、見ないふりをするのが礼儀である。
・複数の人と会食するときに、一部の人にしか分からない話題で勝手に盛り上がるのは失礼である。
・食事のテーブルで、ひそひそ話は禁物。

などなど。

意外なほど扱われているマナーの内容が高度なので、途中で登場するスカンクが玄関で待ちぼうけを食わされた際、あわてて迎えに出てきたアライグマたちの前へ、「ちょいと花の香りをかいでいたんで……」と何食わぬ顔して茂みから現れたシーンでは、これはもしや「不慮のトラブルで取り乱す相手に余計な気を遣わせない」という超ハイレベルマナーの演習なのか?!と深読みしてしまったほどだ。

ところで、私がこの絵本の中で一番好きなシーンは、しとやかシャムネコさんの家にお呼ばれされたアライグマとペンギンくんが、彼女の家から漏れる歌声を聞いて話題にするところ。少し長いが以下に引用してみる。

シャムネコさんの家のそばまでくると、歌声がきこえてきました。

 おお、なんてかわいいシャムネコちゃん
 おお、なんてかわいいシャムネコちゃん
 おお、なんてかわいい・・

それをきいて、ペンギンくんもうたいだしました。

 おお、なんてかわいいペンギンちゃん
 おお、なんてかわいいペンギンちゃん
 おお、なんてかわいい・・

 ところがアライグマにくびねっこをつかまれ、「ちょっと、なんですかそれ、
じまんしちゃって。」といわれてしまいました。
「だったらシャムネコさんだって、じまんしてるじゃない。きこえたでしょ?」と
ペンギンくんはいいました。
「シャムネコさんは、だれかがきいてるとは知らずにうたってるんだから、じまんにはなりません。じしんをもって元気をだそうとしてるだけです。」
「じまんとじしん。にたようなものじゃない。」とペンギンくんはいいました。
「いいえ、ちっともにてません。」と、アライグマはいいました。


この一節で述べられている内容の深さといったら!これだから絵本は怖い。
自意識の健全なる活用とも言える自己暗示と、マナーを外れる自己顕示との違い。
こんなことまで気付かせてくれるアライグマのコーチング力に思わず唸ってしまう。

何より、このシャムネコさんの行動こそ、とても重要なマナーの実践ではあるまいか。
健全なセルフイメージを持ち、機嫌の良い自分を保つということ。
それは、「人を不快にさせない」という全てのマナーの目的において、非常に有効なやり方ではないかと私は思うのだ。
何故なら、ありのままの自分を「価値ある者」と認められる余裕を持つ人は、他人に対してもそれだけ寛容さを持てる人だということを、これまでの人間関係で私は少なからず実感してきたからだ。

決して簡単に実践できるマナーではないが、人からオバサンと呼ばれて否定できない程度に歳を食ったからには、いいかげんこの境地に近づかなければいかんのう・・・などとつぶやきつつ、
やおら背筋を伸ばしてみるのであった。

お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 22:02 | Comment(4) | TrackBack(0) | 実用的な絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おもしろい!素敵です。
「空気を読め」に笑ってしまいましたww
考えれば考えるほど深いですね。じっくり読んでみたいなあと思いました。
とりあげるポイントが素晴らしいです。すごくおもしろく読ませてもらいました!
Posted by ゆう at 2011年02月06日 23:51
>ゆうさん

初めまして、でしょうか?
ゆうさんという知り合いが複数いるもので…
何はともあれお越し頂きありがとうございます。

空気を読めないとコミュニケーション能力に問題ありのように良く言われますが、
空気が読めすぎると、本人は辛いだろうなーと思います。
KY上等!で我が道を行く人が一番幸せなのでしょうね^^

Posted by えほんうるふ at 2011年02月07日 12:02
はっ。失礼しました。Twitterでいつもお世話になってますゆうです。
私はよく読め過ぎるというか深読みしすぎて疲れてしまうほうなので、たまには読まないくらいが楽なのかもしれませんw
Posted by ゆう at 2011年02月07日 22:51
ういーす。来てくれてありがとー^^
深読み疲れにはツイッターが良く効きますよ♪


Posted by えほんうるふ at 2011年02月10日 11:41
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