2010年11月15日

友だちは無駄である、か?

さかな1ぴき なまのまま
さかな1ぴき なまのまま佐野 洋子

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友だちは無駄である (ちくま文庫)
友だちは無駄である (ちくま文庫)佐野 洋子

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2010年11月5日 佐野洋子さん 乳ガンで死去。享年72歳。
私にとって佐野さんは、若い頃に著作に出逢い、その後の自分の生き方に影響を受けた憧れの大人の女性の一人だった。
奇しくも、やはり同性としてその生き方を尊敬していた千葉敦子さんも、今から20年以上前に同じガンでこの世を去った。
あの時と同じように、密かに慕い憧れていた人を亡くすのは、悲しいと言うより焦る。
いつも側にいてくれると甘えていた人に、突如去られて自立を余儀なくされるような。
頼りにしていたらいおんに突然置いて行かれたラチになった気分で、置き手紙代わりに残された作品を改めて読み返しては、その本を読んで泣いた日笑った日考え込んだ日を思い出し、一人遠くを眺めるのだった。

当然ながら、次回の大人絵本会では佐野さんの絵本を取り上げようと思った。
思えば記念すべき第一回は「100万回生きたねこ」だった。我ながら初回から飛ばしたものだ。
悩みに悩んで決めた一冊は、「さかな1ぴきなまのまま」。
1978年発刊の絵本だが、私がこの作品に出逢ったのはそう昔ではない。

もし子供の頃に読んだら、何が面白いのか分からず記憶にも残らなかったかも知れない。
しっかり大人になってから読んだこの絵本。何気なく手に取ったのに、自分で自分に動揺するほど主人公のねこに感情移入してしまい、たまらなく胸が痛くなった。
その痛みは現在進行形で、恐らくこの先もずっと癒えることはないだろう。それでも私はこの絵本を繰り返し読み、繰り返し泣かずにはいられない。

主人公のねこは、思いこみが激しく、思いつきで行動するフットワークだけは良い。でも弱みを見せる勇気がないから、いつも強がっている。プライドが高く傲慢で、辛い時には涙を堪え負け惜しみをつぶやいて、無理矢理自分を励まそうとする。何より、そうやって大人ぶってるクセに本当はとても幼くて、他人を傷つけることに無頓着。
一方のへびは、決して強がらないのに、ねこよりずっと強い心の持ち主だ。気持ちのささくれた相手に拒否されても傷つかず、卑屈にもならず、いつも笑っている。健全な鈍感力を持っていて、素直に好意を表し、まっすぐ歩み寄ってくる。
そんなへびが疎ましかったねこが、やがてその存在のありがたみに気付く。一緒にいたいと思うようになる。
よかったね、ねこ。よかったね、へび。私は心底ホッとする。

思えば自分はずっとこの絵本のねこのような人間だった。いや、今でもそうかも知れない。
身勝手な自分を慕ってくれる人は貴重なのに、傲慢な私は無意識に相手を選び態度を変え、興味のない人には冷たかった。
彼らの多くは反応のない私に失望して去っていった。
折角仲良くなれた相手でも、お互いの環境が変わり会う機会が減ると、敢えて自分からつながりを保つ努力をしなかった。
一番古い友人は小学1年から続いているが、そんな友人でさえ、年賀状と年に数回メールのやりとりをするぐらい。
だから私には幼馴染みのようなつきあいの長い友人が極端に少ない。
親友という言葉を聞いて頭に浮かぶ顔はいくつかあるが、相手がそう思っているかどうかには恐ろしく自信がない。
時々そのことに気がついて、自分は人として何かひどい欠陥があるのではないかと愕然とする。

そんな私にとって、ベタベタした愛や友情を否定するような佐野さんの作品は常に心の友だった。
作品から憶測して、佐野さん自身も好き嫌いが激しく人付き合いに波のある人なのだろうと勝手に考えていた。
だから、中高生に向けて友情について書かれたというエッセイ「友だちは無駄である」を手にしたときも、きっと「友達なんかいない、いなくても平気」的なことが書かれているのだろうと予想していた。
ところがどっこい、佐野さんはこの本の中で、彼女の友達の多さやそのつながりの長さや濃さを綿々と語っていたのである。
肩すかしを食らった私はなんだか急に寂しくなり、何かを期待した自分が憐れに思えた。

考えてみれば、本当に友達がいない人間が「友だちは無駄である」なんて言葉を吐けるわけがない。
確かにこのエッセイを読んで見えてくる佐野さんは、決して誰でもウェルカムなフレンドリーな人ではない。それなのに無駄と言い切れるほど沢山の良い友人を持ち、表裏のない友情を長続きさせてこられたのは、人一倍たくさんのへびを惹きつけ呼び寄せる力があったからに違いない。
その人徳こそが私が憧れる佐野洋子さんの魅力なのだと改めて気付かされた。

ところでこの「友だちは無駄である」という本は、対談型のエッセイとなっていて、後書きでようやく明かされるインタビュアーは、なんと谷川俊太郎さんなのである。
谷川さんは佐野さんとは対照的な友人観を持っていて、この本の中で「自分に、ほとんど友人が必要ではないんじゃないかと。…(中略)…だって、それまでぜんぜん不自由しなかったんだもの。おとなになってからもほんとうに親友が必要だと思ったことがないと思うね。」と述べていらっしゃる。
羨ましいほどの潔さ。そして、これに対する佐野さんのツッコミがまたすごい。

「それは、きっと猫がずっと、生まれつき猫やっていて、それで不自由しないっていうのと同じじゃないの?」

「そうそう、そうだと思うね。」


大勢のヘビに慕われるねこになるか。ヘビを必要としないねこになるか。
そのどちらにも届かない凡人は、迷いつつ悩みつつ今日も生きるのであった。

お気に召しましたら・・
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posted by えほんうるふ at 11:55 | Comment(4) | TrackBack(0) | 泣ける絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは!

今日は大人絵本会遅れて参加することになると思います。

私も佐野さんの訃報を聞いてから、絵本も含め30冊近い本を読みなおしました。

その中で「友だちは無駄である」は読んでいなかったエッセイでした。

なんだか心がぎゅーとして、ああ〜あの時の友だちになんて言ったらいいのかなとか、自分が不義理をしている友だちのことを思い出してしまいました。

谷川さんのようにへびを必要としないねことして生きていければいいのでしょうが…

今夜の大人絵本会が楽しみのようでもあり、ちょっと怖い気もしているのでした…

私自身友だちの思い出はは、なんだか不器用で、自己主張をしていたおブスな自分を思い知らされてしまうので、ちょっと痛いのです。

大人になって「友だちは無駄である」に書いてあるように偽善を自由に使いこなせるようになって、ちょっとだけ楽になったかなぁ

そして大人になって友だちになった友だちはかけがえのない友だちになっているような気もします。

なんか支離滅裂ですが^^;
ではではまた夜に!
Posted by kako at 2010年11月15日 17:14
>kakoさん

昨夜も意外と盛り上がりましたね(^^;)
私自身、「友達」って言葉には痛い思い出が多いほうなんで、正直このテーマを扱うのは気が重かったんです。
でも蓋を開けてみれば、昨日の話の流れ、すごくあったかかったですよね。いろんな痛みや呪縛を経験して、それを乗り越えてきたからこそ、人にも自分にも優しくなれる。大人になるっていいなあ、ってしみじみ思いました。

それにしても、大人絵本会の仲間(って勝手に私が思ってるだけだけど)とのご縁て、やっぱり不思議だと思いません? 別に何のスクリーニングもしてないのに、いつの間にか昔からの友達みたいに気が合う人々が集まってくるのね。(笑)
出会いはバーチャルだけど、気がつけばリアル友達としてしょっちゅう会ってるし。面白いったらありゃしない。

まさか思いつきで始めたネットの遊びからこんなプライスレスな財産が手にはいるとは思いも寄りませんでした。
誰に感謝すればいいんだろう。ネットの神様?絵本の神様?
誰でもいいや、いつもありがとうございます。お陰様で私は幸せです♪
Posted by えほんうるふ at 2010年11月16日 16:42
お久しぶりです。
私も佐野洋子さんの絵本は好きで、いくつか読みましたがご紹介の2冊は知りませんでした。
過去ログの「100万回生きたねこ」も読ませていただきました。
いつかえほんうるふさんがご自身と私が似ていると言ってくださいましたが、明らかに違うことを発見しました。実は私・・・ウルトラナルシストなんです(笑)その辺大きく違います。なので昔からあの本読むと泣けました。

はてさて、私も佐野洋子さんは「友達なんていらないよ」って主張する方だと思ってたので意外でした。確かに友達と上手く付き合えるのならそれは面白いことでしょうね。ただ、他人と近づきすぎると疲れてしまうので距離をどれくらいあけるのか、難しいところです。距離は人それぞれ異なるでしょうし・・・

昨今では大学生が友達ができないために退学してしまったり、友達がいないということがやたらに恥ずかしいことという認識を持っているみたいでなんだか不思議です。友達なんて作ろうと思って膨れる桃じゃないし、いつの間にか出来てしまうのもなんですがね。
Posted by ぴぐもん at 2010年12月21日 16:34
お返事すっかり遅くなってスミマセン。
今年もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

ぴぐもんさんがウルトラナルシスト?
あの本読むと泣けるとおっしゃるなら、確かにその傾向はあるかも(笑)。
一番幸せなのは自分がナルシストであることを自覚していない人かも知れませんが、案外そういう人って憎めないんですよね。自分が自分でいて幸せな人って、人にも優しくできる人なので私は大好きです。

佐野さんはきっと幼い頃から自分にあった人付き合いが自然と出来る方だったのでしょうね。
人に媚びずとも慕われる、やはり私にとって永遠の憧れの大人です。
Posted by えほんうるふ at 2011年01月05日 11:33
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