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つい最近、新しい店で髪を切った。
たまたまネットで見つけたその美容室はちょっと変わっていて、客席が一つしかない。
大きな鏡の前に、革張りの椅子が一脚。内装も外装も決して殺風景ではないのに、無駄なモノが無くて清々しい。
そしてもちろん、お店のスタッフもオーナーただ一人。
ここは店というセットと登場人物二人だけのシンプルな舞台で勝負する世界なのだ。
レジ前の小さなソファコーナーには、バンサンの絵本「アンジュール」と、Maya Maxxの「トンちゃんってそういうネコ」が置いてあった。どうやら期待通りの店らしいと嬉しくなった。
当然ながらカットが終わるまで店内には客である私とオーナーの二人きり。時間はたっぷりあるので、初対面にも関わらず色んな話をした。
事前に見たHPでの情報によると、このお店「Perpanas」は1996年に開業。でも一旦閉店して沖縄玉城に移住し、彼の地で新たに開業した美容室を営んでいたが、約6年を経て再び東京に戻り、昨年秋に元の同じ場所で改めてお店を再開したという。
東京のど真ん中で開業中のお店を閉め、まったく環境の異なる沖縄への移住とは、それはもう思い切った決断だったであろうに、あえて再び都会に戻ってきて改めて同じ場所でイチから出直すなんて、なんとも大胆というか無謀というか、いったいどうしてそういう経緯になったのかと興味がわいた。
一見客がお店の事情など聞いても適当に流されるかと思いきや、オーナーの入江さんは、人当たりのいいルックスに似合わずまっすぐな熱い人で、仕事への思い、好きなことを大切にする気持ちなど、ごく自然に話してくれた。そのあたたかい語り口には、結果的にこうするのが自然で必然だったのだという前向きな気持ちが溢れていて、何だか私は静かに感動してしまったのだった。
あれこれ話をするうちにカットが仕上がり、望み通りのシルエットに満足して上機嫌で帰宅した私だったが、ふと思い返した入江さんの話からある絵本を思い出し、どうしても記事にしたくなった。
ユリ・シュルヴィッツの「たからもの」の主人公アイザックは、夢に導かれてはるか遠くの都へ旅に出る。
靴をすり減らし、ようやく目的地へ辿り着いたアイザックは、そこである男に出会う。
そしてアイザックは元来た道を戻り、我が家を目指すのである。
やがて帰り着いた家で彼はたからものを見つけ、それから一生、こころやすらかに暮らしたという。
感謝の きもちから アイザックは<いのりのいえ>を たてた。
そして、かべの かたすみに、こう きざみつけた。
「ちかくに あるものを みつけるために、
とおくまで たびを しなければならないこともある」
たからものは既に自分の手の中にあるのに、あまりに日常にとけ込んでしまって気づかない。
でも思い切って遠くへ行って、別のフレームからもといた場所を見直すと浮かび上がってくる。
ひょっとして、私も私だけのたからものを既に手にしているのだろうか。
いつかそれに気がつく日がくるのだろうか・・・
Perpanasで入江さんと話していると、自分にとって大切なものとそうでないもの、必要なものとそうでないもの、それがちゃんと分かっている人の自信とプライドが伝わってきて、おいしいお水を飲んでいるように気持ちがスッキリする。
アイザックが見つけたたからものを、きっと彼も持っているんだと思う。
こういうのを「いい歳のとり方」って言うのかもしれない。ちょっと憧れる。
でも、私がその境地に達するには、もう少し遠回りが必要なようだ。
よーし、まだまだいっぱい寄り道しながら、歩いていこう。
文京区千駄木 Perpanas
お気に召しましたら・・



【目からウロコが落ちる絵本の過去ログ】
ご紹介頂きましたIrieです。
>「ちかくに あるものを みつけるために、
とおくまで たびを しなければならないこともある」
↑そうですね。本当にこう感じて呼ばれるように沖縄に行き、また呼ばれるように再び故郷東京に戻って来たんだと思います。
無謀とも言える行為でしたが、かけがえのない財産を心に刻み込めたと確信しております。
そう。自分でも使う言葉ですが人生において偶然と考えるより必然と考える方がよりリアルにその時々の物事が理解出来るのではないかと日々考えています。素敵でしょ!必然と考える方が。。
遠回りってとても大事な事だし、とても楽しい事。
私もこれからもっと遠回りして生きていきたいと思います。
素敵に歳とりたいですもんね。
><いのりのいえ>
『いりえ』って入ってますねσ(^_^;)何か嬉しいです。
これも必然と考えます。(笑)
またたくさん話しましょう!有り難うございました。
こんばんは。えほんうるふさん。
>店というセットと登場人物二人だけのシンプルな舞台で勝負
この一文でぐぐっと引き込まれ、また紹介している本も、
うんうん、と、妙になっとく。
遠回りしかできない自分がいるので、
なんか「それでいいよ」と、言われた気がします。
時にごう慢になりそうな程の割り切り方も
必要なんだとすごく心にしみます。
いや、根底には感謝の心、人があってこそなんでしょうね。
地味に一歩ずつ、やっていこう‥‥
そう思った次第です。
こんにちは。何だか改めてご挨拶するのは照れますね(^^;)
勝手に色々書いてしまってすみませんでした。
もしかして、全然的外れなこと書いていたらどうしよう・・と思わないでもなかったんですが、外していなかったようで、ホッとしています。
でも、いつものことですが感じたことをできるだけ簡潔にまとめようとしていると、どんどんキザな文章になっちゃうんですよ。モニターの前で「これじゃあ俺、格好良すぎだろ!」と照れているIrieさんの姿が目に浮かびます(笑)
偶然より、必然と考えること。
うんうん、その方が納得感があって、いいですね!
人との出会いも、絵本との出会いも、みんな出会うべくして会ったんだろうなと思います。だとしたら、私の平凡な人生もなかなか捨てたもんじゃないな(*^_^*)
また喉が渇いたら、お店に「おいしいお水」飲みに行きますね♪
店というセットと登場人物二人だけのシンプルな舞台で勝負
改めて書くと何だかすごく緊張感が漂っているように見えますね(笑)
実際はすごくリラックスできる場所なんですけどね。
遠回り、OK! みちくさ、全然OK!
それもまた通るべくして通る道だから、せっかくだから楽しもう。
そう考えると何だか気が楽になれますね。
私も地味に一歩ずつ、今日という日を慈しんで過ごしたいと思います。
この言葉、こころにしみます〜。
実はつい最近、わたしも本棚からこの絵本をとりだしてながめていたところだったので、なんだかめぐりあわせが不思議で嬉しいです。
『あめのひ』とか、『あるげつようびのあさ』など、おりしも6月にぴったり(かな?)の絵本もあるので、今日は一日ユリ・シュルヴィッツの絵本たちにひたって過ごしたいです♪
また遊びに参りますね〜
昨日読みました♪
子供と「どういう意味だろうね?」って、話あったり、人生って、立ち止まっていてはいけないんだな
って、再認識させられました。
私のバイト先の近くにも、お一人で美容院をやって
いらっしゃる方います。
かかりつけ医みたいな、かかりつけ美(笑)ですね。
えほんうるふさんは、一体何冊の絵本を所有されて
いるのでしょうか。
我が家は、図書館で借りては読んで、読んでは借りて。
子供の頃よりも、大人になってからの方が
絵本をたくさん読んでいるMOMOでした(^^)
シュルヴィッツの絵本は静けさを楽しむものが多いですね。私は「よあけ」をイライラしたときの精神安定剤代わりにしたりしています(笑)「ぼくとくまさん」も和みますよね。
仰るとおり、6月はシュルヴィッツに浸るのに最適な月(?)かも知れません。しとしと雨降る日曜日が似合います。
絵本を読んだあと、お子さんと話し合うなんて素敵ですね。
私は読みながらあれこれ突っ込んだりはするんですけど、読んだ後はたいてい読みっぱなしです(^^;)
かかりつけ美、って面白い!でもそう思えるようなお店があるといいですよね。理想は、何も言わなくても椅子に座るだけで自分好みのスタイルにしてもらえること。イメチェンしたい時も、言わなくても伝わるの。あり得ませんけど(笑)
うちにある絵本はせいぜい40〜50冊ぐらいですよ。全部手元に置いていたら床が抜けちゃいますから、厳選しています。
その代わり、うちも図書館のお世話になってます。自転車5分の範囲に2館あるので、ほぼ日参しています。子供達の分を含め、行くたびに30〜40冊絵本を借りるので、肩が凝ります(笑)
「ちかくに あるものを みつけるために、
とおくまで たびを しなければならないこともある」・・・明言だと思いますよ。
こういう事を言える人になりないですね。
-(や)-
良い言葉ですよねぇ・・
灯台もと暗し、と言われたらガックリ来るようなシチュエーションでも、こう言われたら胸を張れますよね。
この言葉は覚えておこうと思ってます。
えほんうるふさんのようにうまく書けず恥ずかしいのですが、
この絵本のコト記事にしてみました。(TBしたのですが、届きましたでしょうか)
駄文、よかったら読んでください。。。。。
私のブログがなずなさんとこの絵本との縁をつないだのだとしたら、こんな嬉しいことはないです♪ とても素敵な絵本なので…(*^_^*)
でも、トラックバック来てないみたいです(^^;)
承認制でもないし特にブロックもかけてないのでもう一度送ってみて下さいね。
とおくまで たびを しなければならないこともある」
パウロ・コエーリョの「アルケミスト」も
まさにそんな話でしたね。
考えてみればメーテルリンクの「青い鳥」もそうだし。
「たからもの」気になります。
今度読んでみよう。
絵本好きなえほんうるふさんのセレクトした美容室は、まるで絵本のように愛らしくて、そのオーナーの美容師さんは、まるで絵本のように奥深い魅力を感じさせる方ですね。
こういう話が世界各地で普遍的に語られるのは、それだけ自分の人生に価値を見い出せずに生きている人が多いということなんでしょうか。
「私、何やってんだろう」と思いながら生きてきても、後で「ああ、そうだったんだ」と納得できたらその人生は大成功ですよね。
だからとりあえず前に進もう、と。
Perpanasのオーナーさんはとても爽やかな人ですが、私の「上質なヘンな人」アンテナに引っかかるだけあって、自分のコダワリを大切にする気持ちが熱い人ですよw