2005年12月06日

失望感をリセットするおまじない

ほらいしころがおっこちたよねわすれようよほらいしころがおっこちたよねわすれようよ
田島 征三

偕成社 2000
おすすめ平均

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何をやってもうまくいかない時がある。一日の始まりから立て続けに失敗や災難に見舞われると、「ひょっとして今日は厄日か?」とイヤな予感が頭をかすめる。でもその気持ちに囚われてしまうとますます厄災を呼び込んでしまうような気がして、何とか気持ちを切り替えようと無理に笑ってみたりする。それぐらいじゃどうにもスッキリしないという、一度凹んだ気分のリセットが苦手な貴方にオススメの絵本がある。

きょうはとびきりの上天気。いつも失敗ばかりのおじいさんも何だか気分一新で、朝から張り切っておばあさんの手伝いをしようとする。ところがおじいさんが張り切れば張り切るほど、仕事はうまくいかず失敗ばかり。それでもおじいさんはめげたりしない。しばし考え込んだあと、おじいさんはやおら傍らの小石を拾い上げると、明るい声でおばあさんにこう言うのだった。

「ほれ、おばあさん! みてごらん。な、ここに いしころが
あるだろ。さ、手を はなすよ。」

「ほら、おっこちた。」
 こいしが、ぽとんと、じべたに おちました。
「ね、わすれようよ。」
 おじいさんが いいました。


おじいさんの唐突な言葉にきょとんとしていたおばあさんは、やがてその真意を理解する。小石が地面に落っこちた、その瞬間におじいさんの一日はきれいさっぱりリセットされたのだ。従って、それまでの失敗や災難は全てなかったことなのだ。
その後もおじいさんはやることなすこと大失敗するのだが、その度に長靴やらバケツやら手近にある物を盛大に地面に落っことし、やってしまったことの全てを強引になかったことにしてしまう。挙げ句の果てに自分自身が屋根から落っこちる羽目になり、さすがのおじいさんも意気消沈してしまうのだが…
後は読んでのお楽しみ!


気持ちを切り替えるために、自分だけの小さな儀式を行う人は多い。それは日頃我慢している好物をつまむことだったり、熱いシャワーを浴びることだったり、人によっていろいろだ。私の場合はシンプルに「ま、いっか」と声に出して自分に言い聞かすことで焦る気持ちにブレーキをかけ、体勢を整える。ちなみに我が家ではこれを【「ま、いっか」の魔法】と呼び、即効性のある呪文としてなにかと神経質な長女にもよく勧めている。ポジティブシンキングの塊のような夫の場合、ちょくちょく「大勢(たいせい)に影響なし!」という言葉を使っている。
さてこのおじいさんの場合、心境リセットの仕方がいさぎよすぎて少々無責任にも思え、現実に行使されたら周囲の人間はたまったものではない。それでもその民話的に豪快なキャラクターは、小さな失敗に囚われがちな私たちの凹んだ気持ちを笑いで癒してくれる。ちょっぴり心配性のおばあさんが、懸命におじいさんの心に寄り添って前を向こうとする、そのケナゲな夫婦愛にもジーンとして、励まされる思いがする。

考えてみれば、自分が今くよくよと気に病んでいることだって、少なくともそのうちの何割かは、もともとなかったことにしてしまえる些細なことではないか? 現実逃避と言われようと、そんなトホホな自分をも笑って受け入れてくれる家族や友人がいるではないか…?

この絵本での田島征三氏の絵はいつもの力強い具象表現とは一転、かなり抽象的な画風なのだが、やはり眺めているうちに一枚一枚の絵からほとばしる強烈な生命力を感じてドキドキしてくる。おじいさんの全身にみなぎるエネルギー、おばあさんの細やかな感情の揺れ動き、場面展開のスピード感…この鮮烈な絵画表現は、文字だけでは決して伝わらない迫力を持っていて、絵本というメディアの底力を感じさせる。それはコドモにはもったいないようなリッチな味わいなのだが、実際にはコドモの方がオトナの私より2倍も3倍もストレートに絵と文を受け止め、平然と咀嚼し消化してしまう。無邪気なコドモがモンスターに思えるのはこんな時だ。

そしてまた、失望感に心を蝕まれないたくましさを持っているのもコドモ達だ。彼らは嫌なこと、辛いこと、悲しいことを忘れる天才だ。だから失望から自己嫌悪に陥ったりせずに、常に前を向いていられる。健康なカラスは泣いた直後に笑い出し、尽きない好奇心に目を光らせるのだ。
一方オトナは内省を繰り返し、過去の自分の行動に意義をもたせようとする。ダメな時にダメな自分に苦しむのは、せっかく積み上げた自分の努力を無にしたくないというオトナ的な諦めの悪さの現れかも知れない。そこで苦しんでこそ人は大きく成長するのだろうが、ヘタな悪あがきをせず、何度でもふりだしに戻って笑顔で歩き出せる人もまた、尊敬すべき勇気と強さを持っているのだと私は思う。
posted by えほんうるふ at 11:40 | Comment(8) | TrackBack(0) | 元気が出る絵本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
結婚するときに、「『ま、いいか!』がこの方の口癖です」と仲人さんに紹介されたka-3です。そうなんです。「ま、いいか!」は私にとって、物心付いてからずっとおまじないとなっている大切な言葉です。
どうでもいいことをぐじぐじと考えること多いんですよね。でも、うちの子どもたちの場合、もっとしっかり考えてほしいことまで「ま、いいか」で済ませうことが多く、これも血か・・・と半分あきらめていますが・・・。
いやしかし、初心に戻って行動するって、時には本当に大切なことで、視野が狭くなっているときなどはとくに必要ですよね。
私好みの絵本を紹介していただき、ありがとうございます。先ほど別の記事にコメントしたばかりだったのですが、この新着記事を読んで、嬉しくて思わずコメントせずにはいられなくなりました♪


Posted by ka-3 at 2005年12月07日 13:25
>ka-3さん

きっと大らかで包容力のあるダンナさまなんでしょうね(^o^) 思い通りに行かないことばかりの人生、やたら要求水準の高い人と暮らすよりも「ま、いっか」と言って流せる人と一緒にいるほうが絶対幸せになれると思います♪

歳を取るほどに初心に戻るのがだんだん難しくなってきました。それはやっぱり、これまでの自分を否定したくないというオトナのエゴなのだと思います。オトナになるって、ケチになることなのかしら(^^;) うーん、深い。
Posted by えほんうるふ at 2005年12月09日 00:54
えほんうるふさん、こんにちは。
調子が悪くなると来ます。
すいません、変な使い方で。
題名が素敵ですね、
「失望感をリセットするおまじない」なんて。
この題名だけでなんか気分が楽になりました。

ありがとうございます。
Posted by りんご at 2005年12月14日 00:38
>りんごさん

こんにちは。
必要な時だけ適宜摂取、というのもまた「オトナノトモ」の正しい用法・容量です(笑)。むしろ調子が悪くなると来たくなる、そんなサイトと思っていただけるなら光栄です。りんごさん自身のことを思えばできるだけここへ来ないで済むことをお祈りしないとね(^^;)

こちらこそありがとうございます。
Posted by えほんうるふ at 2005年12月14日 23:56
さすがっ!だね。
あたしの最近の悩み解消。

ここのコメントにある「ケチになる」ってフレーズ。ウチの主人も同じことを最近言ってる。
楽しみながら、ちょっとづつ読んでみます。

さっき言っていた絵本は「きまのこミンのおうち」っていう本でした。
http://www.nielbooks.jp/newrelease/index.html
またくるよー。
Posted by すまいる at 2005年12月15日 22:11
>すまいる

ようこそオトナノトモへ。長文読ませて悪いね(笑)
絵本とオトナの日常を無理矢理リンクさせちゃうのがここの特徴です。だからコメントのやりとりも人生相談みたいになっちゃって、一人一人の書き込みがやたら長い(^^;) 
常連の皆さんもそれぞれこだわりを持った人が多いので勉強になるよ。
またいつでも遊びにおいで♪
Posted by えほんうるふ at 2005年12月16日 09:27
おじいさんの、かなり無理のある気分転換がいいですね。

それと、またもや記事の趣旨を外した発言をしてしまえば、イジイジした子ども、細かなことをずっと根に持つような子どもも多いと思います。そういう子は、自分のそういうどうしようもない性質への嫌悪感を早くからもっています。そういう子どもには、すっきりイヤなことを忘れられなくて、イジイジしている自分を悪い子だと思う必要はないんだよ、って言うことにしています。(^^;
Posted by enzian at 2005年12月16日 11:32
>enzianさん

どうもどうも♪ちょっぴりご無沙汰しております。
おじいさんのやり方ははっきりいって勢い任せですよね(^^;) そこがいいのです!

>そういう子どもには、すっきりイヤなことを忘れられなくて、
>イジイジしている自分を悪い子だと思う必要はないんだよ、
>って言うことにしています。(^^;

いいなぁenzianさん。将来すごく素敵なお父さんになりそう。
子どもに自分自身を嫌わせないことって、難しいけどとても大切なことですよね。「自分が大好き」と言える子に育ってくれたら、育児は大成功なんじゃないかと。どんな個性を持っていても胸張って「これが私」って言える子になってほしいと思っています。
Posted by えほんうるふ at 2005年12月17日 00:53
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